ミラン、カカのレアル・マドリー移籍が示す不安な未来=ホンマヨシカの「セリエA・未来派宣言」

ホンマヨシカ

ベルルスコーニはロナウジーニョ中心を唱えるが……

カカの代名詞でもあった背番号22。そのユニホームに別れを告げた 【Photo:Maurizio Borsari/アフロ】

 そしてもう1つ、財政赤字の改善以外にも、ミランにカカ放出を決心させた要因として、ロナウジーニョの存在が挙げられる。昨シーズンのオフ、ロナウジーニョの加入は大きな話題を呼んだが、これは決して長期的なビジョンがあっての補強ではなかった。どちらかといえば、選手補強がうまく進まず、不満が募り始めたファンの目をそらすための場当たり的な獲得だった。
 ロナウジーニョはインテルとの最初のダービーで決勝ゴールを決めるなど、昨シーズンの前半こそそれなりの活躍を見せたが、シーズンが進むにつれ、その影は薄くなっていった。コンディション不良に加え、どうしてもカカとポジションがかぶってしまうこともあり、シーズン後半は出場機会もままならなかった。

 オーナーであるベルルスコーニは、ロナウジーニョを起用しないアンチェロッティ監督を事あるごとに批判し、ついにはクラブから追い出した(今季終了後、アンチェロッティはチェルシーの監督に就任)。かつて“ジェニオ”(天才)と呼ばれたサビチェビッチを愛したように、ベルルスコーニはテクニカルなプレースタイルを好む。
 だからなのか、ロナウジーニョのセリエAでの成功を信じるオーナーにとって、カカの放出はそれほど大きな痛手ではないのかもしれない。新体制について問われたベルルスコーニは、「レオナルド新監督は攻撃的なチームを作るだろう。そこでロナウジーニョが主役になるはずだ」と話している。カカが抜けた穴は、ロナウジーニョが十分に埋めてくれると確信しているようだ。

 しかし大多数のミラニスタにとって、カカのレアル・マドリーへの移籍は、ファンに対する首脳陣の裏切り行為としか映らないだろう。実際、ミランのクラブ本部が置かれているトゥラーティ通りではカカの移籍に反対する抗議活動が行われ、ウェブ上では非難のコメントが殺到していた。移籍が決定した今、抗議はますます激しくなり、ファンのミラン離れに拍車が掛かるものと見られている。

セリエAはリーガ、プレミアへの通過点に

 ガッリアーニ副会長は今回の移籍騒動の際、サッカー選手に対する所得税はイタリアに比べてスペインの方が低いことに触れ、「イタリアのクラブが同じ土俵でスペインのクラブと選手獲得を競うのは不利である」と説明した。そのため、イタリア勢がメッシやクリスティアーノ・ロナウドを獲得することは不可能なのだという。だから、カカの移籍は致し方なかったとでも言いたいのだろうか。

 カカのケースも含め、各クラブの移籍市場での動向を見てみると、セリエAが置かれている状況が浮き彫りになる。ミラノのもう1つのクラブ、インテルでもイブラヒモビッチのバルセロナへの移籍がまとまりそうな気配だ。もし、この移籍が決定すれば、セリエAから2人のスター選手、しかもミラン、インテルの両エースが去ることになってしまう。

 かつてマラドーナやプラティニといった超一流選手がプレーし、世界最高峰とうたわれたセリエAだが、その面影は薄れつつある。多くの外国人選手にとって、イタリアは到達点ではなくなった。今やセリエAは、リーガ・エスパニョーラやプレミアリーグのビッグクラブへ行くための通過点に成り下がってしまった。カカもまたその1人なのだろう。

<了>

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著者プロフィール

1953年奈良県生まれ。74年に美術勉強のためにイタリアに渡る。現地の美術学校卒業後、ファッション・イラストレーターを経て、フリーの造形作家として活動。サッカーの魅力に憑(つ)かれて44年。そもそも留学の動機は、本場のサッカーを生で観戦するためであった。現在『欧州サッカー批評』(双葉社)にイラスト&コラムを連載中

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