さいたまダービーに懸ける熱い思い=大宮が“好敵手”浦和に挑む

土地将靖

浦和とのさいたまダービーを前に熱い思いを語った大宮の張外龍監督 【Photo:アフロ】

 今年ももうすぐ「あの日」がやってくる。1年に2回だけ、さいたま市が真っ二つに分かれる日。普段は、「アルディージャも最近頑張ってるよな」「レッズも今年は調子いいじゃん」と言葉を交わし、お互いをリスペクトし合う者たちも、この日だけは倒すべき敵。それが、ダービーマッチである。

「さいたまダービーが日本全国にサッカーブームを巻き起こす、そのように頑張っていきたい」
 張外龍(チャン・ウェリョン)監督が今シーズンの大宮アルディージャの新体制発表会見にて、冒頭のあいさつとして語った言葉の、その締めくくりである。5年ぶりのJリーグとはいえ、アルディージャにとって、そしてさいたま市にとってダービーマッチがどういうものなのか、張監督も十二分に承知していたようである。

大宮アルディージャにとっての“さいたまダービー”

 正直、さいたまダービーが「日本全国にサッカーブームを巻き起こす」ほどのカードかと言えば、現時点では「ノー」であろう。それほどの格差が両チームの間にはある。国内3大タイトル(Jリーグ、ナビスコ杯、天皇杯)のすべてに優勝経験を持ち、アジアを制し、世界3位に輝いたこともあるビッグクラブと、今季がJ1の5年目で常に残留争いの憂き目にあっている小クラブ。資金格差は約2倍。サポーターの数もまたしかり。今のさいたまダービーは、メディアが浦和レッズ戦を語る上での枕ことばでしかない。

 レッズから見れば、“リーグ優勝を狙う上で絶対に取りこぼせない下位チームとの対戦”かもしれない。戦前によくレッズの選手から聞かれるのは、「リーグ戦のうちの1試合」という言葉。だが、アルディージャにとってはまったく違う。選手にとって、そしてサポーターにとって、自らのアイデンティティーを懸けて90分間死力を尽くす戦いである。極論すれば、「ダービーに勝てば、あとはJ1に残留できる程度の勝ち点が稼げればそれでいい」「タイトルよりもダービー」――そこまで思い入れているサポーターすら存在する。

 2005年に、J1リーグ戦のさいたまダービーで勝利したときの、「今日だけは、アルディージャサポーターに浦和の街の真ん中を堂々と歩いてほしい」という桜井直人(現アルディージャ普及部コーチ)の名言が何より物語っている。アルディージャにとって、このカードはそれほど特別なものなのだ。

大宮アルディージャに求められる「自信」

 張監督自身がダービーマッチというものに強く印象を受けたのは、2007年にイングランドへコーチ留学したときのことだ。「トッテナムとチェルシーのロンドンダービーのときに、けが人まで出るほどの熱気に包まれていた。“サッカーはこれほどまでに人々を熱狂させるのか”」と感心させられたと言う。アルディージャの監督に就任が決まった際、やはりさいたまダービーへ思いをはせたのは当然だろう。それが、冒頭の言葉として表れている。

 同時に、冷徹なほどの現状分析も怠らない。今シーズン開幕直前に行われたレッズとの練習試合では、「名前に負けている。“あれが有名な○○選手だ”と、もうちょっと詰めなければいけないところでも、1歩手前で止まってしまっているような感じがした」と選手の気後れを指摘した。就任直後から繰り返して口にする「自信」の重要性だ。

 今季の目標として掲げた、来季のAFCチャンピオンズリーグ出場権獲得。張監督は、アルディージャにはその力が「自信をつければ十分にある」と言う。「ガンバやアントラーズなど、いわゆる“強豪”と呼ばれるチームと対戦するとき、選手たちは試合に入る前から弱気になっていた」(張監督)。それでは、持っている力を存分に発揮することはできない。「(チームの)始動直後からは、相当変わってきた」(張監督)というメンタル面の変化を、このさいたまダービーのピッチ上でプレーとして表現することで、全国に知らしめなければならない。

 第12節終了時点の順位でいえば、2位と15位の戦いである。筆者自身、精神論はあまり好きではないが、それでも技術や戦術を超越した何かがなければ、下馬評を覆すことは難しいと言わざるを得ないのだ。

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著者プロフィール

1967年1月28日、埼玉県生まれ。93年、現在のWEB版「J's GOAL」の前身である試合速報テレホンサービス「J's GOAL」にて、試合リポーター兼ライターとして業界入り。2001年よりフリーランスとなりライターとして本格活動を開始、大宮アルディージャに密着し週刊サッカーマガジン(ベースボール・マガジン社)ほか専門誌等に寄稿している。

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