オランダ王者AZが重視した“キャラクター”=中田徹の「オランダ通信」

中田徹

平山相太の元同僚がAZに移籍

AZはアヤックスやPSVといった強豪を抑え、28年ぶりにリーグ優勝を達成。キャラクター重視の補強が成功した 【Photo:アフロ】

 昨年末、僕は近年アジア−欧州路線に力を入れているフィンエアー(フィンランド航空)を使って帰省した。まずはアムステルダムからヘルシンキへ約3時間のショートトリップ。僕は通路側のいすに深く座って、早くも日本での予定に思いをはせていた。
「すいません。ちょっと中に座らせてください」と背の高い外国人カップルが声をかけてきた。「ああ、いいですよ」と僕はちょっと席を立ち、まずはその彼女が窓際に座り、彼は僕の隣に座った。僕は機内誌に目を落とし始めた。すると隣の彼はこう言ってきた。
「ソウタ・ヒラヤマは元気ですか?」

 いったい僕の隣に座ったのは何者だ!? と振り向くと、エストニア代表のラグナル・クラバンがニコニコ笑っていた。クラバンは“エストニアのベッカム”と呼ばれているが、本人もそれを意識しているのか長髪から短髪にスタイルを変えている。
 クラバンはヘラクレスのDF兼MFで、平山相太と同期入団。そのため平山とは一緒にオランダ語の学校へ通っていた仲でもあった。クラバンは前夜、デ・フラーフスハップ戦を戦い、この日からウインターブレークに入ってエストニアへ彼女と帰省するところだったのだ。おかげで僕にとっては楽しいフライトになった。

 それから2週間後。オランダへ戻ってたまった新聞や雑誌を読んでいると、「クラバン、AZへ移籍」と書かれている記事があり、驚いた。確かにクラバンは、ヘラクレス時代の恩人、ペーター・ボスがテクニカル・ディレクターを務めるフェイエノールト移籍のうわさがあったが、最近はヘラクレスで必ずしもレギュラー安泰とは言えない状況だった。
 AZなんてクラバンも大出世したなあ――と僕は思った。と同時にAZのスカウティングのすごさも感じた。サッカーの能力ばかりでなく、チームへの献身的な姿勢、オランダへの適応力、向上心、チームメートへの気配り……こうした点をAZはきちんと見ていたのだろう。ちなみに平山の退団騒動の際、最も心配していたのがクラバンであった。

今季の補強は無名かつ地味な選手ばかり

 昨季のAZは、650万ユーロ(当時のレートで約11億3000万円)を費やしFWグラツィアーノ・ペッレ(イタリアU−21代表)を獲得したり、500万ユーロ(約8億円)でFWムニル・エル・ハムダウイ(モロッコ代表)を獲得したり、とかなりの補強を行った。
 しかし今季は、DFジル・スウェルツ(ベルギー代表)、DFニクラス・モイサンデル(フィンランド代表)、FWブレット・ホルマン(オーストラリア代表)、MFニック・ファン・デル・フェルデンの4人に200万ユーロ(約3億3000万円)を使っただけである。特にモイサンデルはズウォーレ、ファン・デル・フェルデンはドルトレヒトという2部リーグのチームから獲得した無名かつ地味な選手だ。そして冬の移籍市場ではクラバン獲得と、AZのスカウティングは明らかに方針を変えている。

 AZはオランダのトップクラブだから、当然実力をしっかりと吟味した上で獲得候補をリストアップしている。しかし何より、チェックポイントとして選手のキャラクターを調べ抜いているのだ。やがて雑誌を読み進めていくと「現地へ選手をチェックしに行った場合、チームメートやベンチに対して不遜(ふそん)な態度をとる選手は、いくら才能があってもAZはその選手を獲得しない」という記事があった。なるほど、クラバンが大出世を果たしたのも、AZのスカウティング方針にぴたりとハマったからだった。

 昨季11位と沈んだAZ。しかも大型補強はゼロ。それでいてスウェルツ、モイサンデルがレギュラーに定着し、ファン・デル・フェルデンやクラバンも試合に出ればしっかり役目を果たし優勝を遂げたのだから、やはりAZのスカウトは目利きなのだろう。そして、「若い選手を確実にレベルアップさせる監督」としてオランダで名高いルイス・ファン・ハール監督と、新加入選手たちのキャラクターが見事にマッチしたのも素晴らしかった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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