イチローのいないマリナーズ開幕戦 

木本大志

イチロー不在という「違和感」

開幕戦、マリナーズベンチにはイチローのユニホームが掲げられた 【写真は共同】

 この日、足跡一つない、きれいなバッターボックスに足を踏み入れたのは、エンディー・チャベス。

 イチローではなかった。

 胃潰瘍(かいよう)と診断されて3日。イチローは既にマリナーズのキャンプ地、ピオリアで体を動かし始めているものの、まだ動きを制限されている。ミネソタで開幕戦を行うチームに帯同したのは、ベンチに掲げられた「51」番のユニホームだけだった。

 前日、イチローがチームにいないことに「違和感がある」と言ったのは、城島健司。

 どんな違和感かと尋ねれば、

「イチローさんがいないと、こんなにマスコミが減るのか。きのう(ラスベガスで行われたオープン戦最終戦)なんて、(記者が)一人やった。あんまりやで。悲しかったよ」

 同試合で本塁打を打った城島は、そう言って笑ったが、「違和感」という言葉には、うなずける。

 前日の練習では、「いない」という前提で練習を見ているので感じなかったが、開幕当日の打撃練習では、いつもなら一組目で打つイチローがいないマリナーズには、違和感があった。

「それほど大きなことなんですよね」と城島。

「イチローさんのようにスピードのある選手なら、ねんざをしたり、肉離れを起こしたり、人間ならあること。それを8年間してないことに驚かされる」

 故障者リストにさえ入ったことがないイチローが休養以外で試合を休んだのは、2002年4月26日のヤンキース戦で、ファールボールを追って左ひざをフェンスにぶつけたあと。この時、4針を縫ったが、休んだのは翌日の試合のみ。その次の試合にはもう、代打で出場している。

 以来、強制的に休まされる以外は、スタメンに名を連ねた。過去5年は、160試合以上に出場。その間、何百通りという打順の組み替えがあったが、イチローだけは、一番に座り続けている。

 ピオリアから届くリポートは、「順調」というものばかり。その回復力の早さも、城島の言葉を借りれば、「驚き」。

 復帰に関しては、8日(現地時間)の朝8時に血液検査を行い、それ次第で今後のスケジュールが見えてくるそうである。ワカマツ監督は、血液検査に問題がなければ、10日のアスレチックス戦からチームに合流させたい意向。

 イチロー本人は、もう少し残って調整を続けたいようだが、「チーム」を重んじる新監督は、一緒にいることで得られる一体感を感じてもらいたいそうだ。

掲げられたユニホームに触れていく選手たち

チームを離れ、ピオリアで調整を続けるイチロー 【写真は共同】

 ところでこの日の試合前、一部地元記者とジャック・ズレンシックGMを囲んだ時、保険の話になった。

 ワールドベースボールクラシック(WBC)に出場した選手には、保険が掛けられている。けがなどで、レギュラーシーズンの出場に影響が出た場合に、それが適用される。

 つまり、試合に出られない分のサラリーを、保険会社が払うのだ。

 しかし、イチローの胃潰瘍(かいよう)は、WBCによるものなのか、それ以外の要素によるものなのか、その証明が難しい。

 胃潰瘍(かいよう)になった要素は、二つあるとされ、それはバクテリアかストレスかだが、現時点ではそれが特定されていない。ストレスなら、WBCの影響だとも言えるが、その証明もまた困難。

 今年のイチローの年棒は、1800万ドル(約18億円)で、1試合あたりのサラリーは約11万ドル(約1100万円)。8試合休むことになれば、88万ドル(約8800万円)。

 仮に、WBCが原因と特定されれば、少なくともその分が保険で補てんされる仕組みのよう。

 ズレンシックGMは、「保険には疎いし、弁護士でもないので、そのあたりは分からない」と苦笑していたが、イチローの欠場が予定より長引くようなら、今後、チームにとっては、シリアスな問題となるかもしれない。

 さて、試合は淡々と進み、5回表を終えて、マリナーズが2点をリード。今年からマリナーズに復帰したケン・グリフィーが、ライトにホームランを打った。

 ダグアウトに掲げられたイチローのユニホームには、選手がその前を通る度に触れている。

<了>
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