“らしさ”生かせず敗れた福知山成美=タジケンのセンバツリポート2009

田尻賢誉

独特の持論を展開する田所監督

持ち味の積極的な打撃を生かせず敗退した福知山成美高ナイン 【写真は共同】

 個性を尊重する――。
 それが、福知山成美高・田所孝二監督の方針だ。グアテマラでナショナルチームのコーチをした経験から、「草野球のような楽しさ」を求め、がんじがらめにした野球はしない。投手も打者も、思い切り投げ、思い切り打つ。それぞれの選手のフォームも個性的だ。
 投手の長岡宏介も、決してきれいな投球フォームではない。上半身に力が入り、踏み出す足はインステップする。それでも田所監督は直そうとはしない。
「(踏み出す足は)まっすぐ入った方がいいという考えもあります。でも、長岡の場合、(ステップは)クロスしてますけど、外にしっかりボールが行きますから」
 たとえ理にはかなっていなくても、個性を消すことで長所が消える場合もある。それなら、いい球が投げられるフォームでいいのではないか。そういう考えだ。
 そんな田所監督だから、打撃に対する考え方も独特。グアテマラ時代のキューバ出身の監督の影響を受け、とにかく思い切って振ることを求める。身体が小さくてもフルスイングをし、カウント0−3からでも打つのがチームの基本姿勢。打席で球は見極めるのではなく、全て打ちにいって、ボール球ならバットが止まるのが理想というスタイルだ。

 2回戦の相手は初戦で最速148キロをマークした今大会ナンバーワン右腕・今村猛を擁する清峰高。「好投手は打てないと崩せない」が持論の田所監督だけに、攻撃的なオーダーを組んだ。初戦で4番を打っていた末吉利光を「調子がいい。5打席立たせたいから」という理由で1番に起用。1番だった西元樹を「当たらないと思ったので、衝突狙いで」6番に置いた。追い込まれる前、初球から積極的に打っていくいつものスタイルで今村に勝負を挑むつもりだった。

 だが、試合は思惑どおりには進まないもの。1、2回ともに三塁まで走者を進めながら点が取れない。3回には無死一塁から末吉がバントを二度ファウルした後、見逃しの三振。ここから負の連鎖が始まった。
 4回には無死から福本匠が二塁打で出たが、続く田嶋健太がバント空振り、バントの構えから引いてストライクで追い込まれ、結局三振。7回には無死一塁から宮崎元がバントの構えで空振りして三振を喫した。さらに、9回無死一塁でも西元がバントをファウルにするなどして2ストライクと追い込まれ、投手ゴロ。初回無死一塁から細野真輝がひとつ決めた以外、全ての送りバントを失敗した。
 初戦でも無死からの走者は全てバントで進めてはいたが、失敗してもバントにこだわった理由を田所監督はこう説明した。
「今村君はランナーが二塁、三塁にいると真剣に投げてくる。二塁に置いて、真剣に放る今村君と勝負したかった」

慣れないバントで個性が消滅

 結果的に、バント策は功を奏さなかった。もちろん、これにはいくつか理由がある。バントの技術が足りなかったこと。今村の球威がバントを許さなかったこと……。だが、それ以上に大きなことがある。それは、いつもやっていることが徹底できなかったことだ。背番号12ながら打力を買われて甲子園では2試合連続スタメンに名を連ねた末吉は、秋の公式戦4試合で犠打はゼロ。それどころか、小中学校を通じて4番だったこともあり、送りバントはやったことがないという。
「送りバントは生涯ゼロです。1回戦で初めてやったぐらいで(対国士舘高、失敗)、全然やったことがありませんでした」
 末吉がいつも田所監督から言われていることは、「ボールを見極めて自分のスイングをしろ」「自信を持っていけ」ということ。それが、バントを失敗したことでできなくなってしまった。バントを失敗した打席だけでなく、第3打席でも見逃し三振に終わっている。
「いい投手だからガンガン打っていこうと思っていたんですけど……。手が出ませんでした。バント失敗でリズムが崩れました」
 それは、6番に入った西元も同じ。田所監督の予想を覆し、第3打席まですべて安打を放ったが、これは持ち味の積極的なスイングができていたからこそだった。3打席全13球のうち、ストライクを見逃したのは1球だけ。空振り2球、ファウル3球を含めて8回スイングをしていた。バットを振るからタイミングも合ってくるし、バットにも当たる。福知山成美高らしく、思い切ってスイングした結果の3安打だった。
 それだけに、9回無死一塁からのバントには悔いが残る。セオリーからすれば当然だが、西元はこう言っていた。
「正直、打ちたかったです。バントはやったことないんで、自信がないんです」
 2ストライクに追い込まれてからはバスター打法に切り替えたが、これもそれまでの西元らしさを消してしまっていた。
「(田所監督から)『いい投手なので、ブンブン振っていたら当たらない。コンパクトに振れ』と言われて、今村と対戦が決まってからはバスターの練習をしていました」
 結果的に二塁へ走者は進めたものの、慣れないバスターからの打球は、当たり損ないの投手ゴロだった。

 バント失敗が勝敗を決めたのは間違いない。バントが決まっていれば展開は変わったかもしれない。
 だが、それよりも残念だったのが、福知山成美高らしさが見えなかったこと。たとえセオリーではバントの場面でも、打力を買って使っている選手ならヒッティング。それも、バスターではなく、普通にフルスイングで勝負。普段から積極的な打撃、思い切ったスイングを奨励しているだけになおさらだ。
 せっかくの個性も“徹底”しなければ武器にならない。
 結果はどうでもいい。個性を貫くことが大事。「今村の速球」対「福知山成美高のフルスイング」――。らしさ、持ち味を生かした勝負を見てみたかった。

<了>
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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