イチロー、2次ラウンドへ 「最高の器にふさわしくありたい」
イチローのサインボール
2次ラウンドへ向け、サンディエゴで練習をするイチロー 【写真は共同】
知らぬ選手ではない。2003年、彼がブレーブスの選手としてセーフコ・フィールドに来たとき、初めて会った。
たまたまブレーブスのクラブハウスに顔を出すと、何かを聞きたそうにまなざしを向けてきたことを覚えている。
彼は小声で言った。
「イチローにサインをもらいたいんだけど、どのタイミングで言ったらいいんだろう?」
細かな気遣いに、協力したくなった。
そのとき、イチローは打撃練習中。「終わった直後を狙えばいいんじゃない」とアドバイスすると、彼と2人、ブレーブスのダッグアウトで待ち構えた。
やがて、打撃練習が終わる。ブレーブスの51番が、2つのボールとサインペンを手にマリナーズの51番に近づくと、イチローは笑みを返してペンを走らせる。「同じ背番号だね」なんていうやり取りが、ケージ裏であったらしい。サインを手に、奉重根は無邪気な笑みを浮かべていた。
その2人も先日、東京ラウンドで3年振りに再会している。
奉重根は肩を痛め、06年のワールドベースボールクラシック(WBC)が終わるとメジャーを去り、韓国の球団と契約した。
奉重根「日本とまた最後に戦いたい」
だが、東京ドームで顔を合わせると、話しかけてきたのはイチローだったというから、彼は感動した。
まずは、イチローが聞いたそうだ。
「背番号は、まだ51番をつけてるの?」
奉重根はうなずく。
すると、イチローもうれしそうにうなずき返した。さらにイチローが聞いたのは、サインボールの行方。今は韓国にあって、ちゃんと飾ってあることなどを伝えると、さらにイチローは大きく微笑み返したと言う。
イチローも本当に昔のことをよく覚えていると思うが、東京での対戦は3打数無安打。これはある意味、奉重根のイチローに対するお礼――。復活することでそれを示したと言えるかもしれない。
奉重根は最後に言った。
「日本とは、また最後に戦いたいと思っている。イチローとも、また対戦したい」
最高の舞台、キューバ戦を控えて
しかし、あしたのキューバ戦について聞かれたイチローは、ハイテンションだった。
「燃えてますねぇ。赤いですからねぇ、彼らは。バーニングですねえ、あれは」
これをどうとるか。解釈は難しいが、早く試合をしたいという興奮と、余裕が入り交じったものだと感じた。
チームとしては、すべきことはした。あとは、試合をするだけ。その相手が何年かに一度顔を合わせるかどうかのキューバ。野球選手としては、最高の舞台を与えられたに等しい。緊張感以前に、それが待ち切れない野球少年・イチローの顔がそこにうかがえた。
今夜こそ彼は、その至福のときに身を委ねているのかもしれない。
決意をこう語る。
「一番、野球界では、こういう器(WBCという大会)が最高の器。それにふさわしい中身でありたい」
<了>
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