上原浩治、ただいまアメリカ野球適応中 

阿部太郎

「まいど〜」が飛び交うキャンプ地

チームメートで元西武のブラゼル(右)に抱き付かれる上原 【写真は共同】

「むっちゃ悔しい。みんなの輪に入れないのが」。

 キャンプインしてはや2週間が経つ。上原がもどかしさを見せるのは野球ではない。

 選手や監督と会話に入れないのが「悔しい」。

 2月15日(現地時間)のキャンプ初日から、上原は事あるごとに通訳のバン・ジウォン氏に尋ねる。「これって英語で言うとなんていうの?」。

 バン氏が英語で答えると、上原は2、3度発音してみせる。そして、「またあした聞くわ」。その貪欲(どんよく)な姿勢。野球となんら変わりはない。

 もう、報道にも出ているが、上原のロッカーの前には「Word of the day」と題した、何枚もの紙がはられてある。たとえば、「See you tomorrow」と書いた下に「Mata asita(またあした)」の文字。「Good job」は「Iine(いいね)」。上原が英語を覚えるだけでなく、チームメートには日本語を教える。関西人らしいと思ったのは、「What’s up(Maido:まいど)」と「Stupid(Ahoka:あほか)」。多くの選手から「まいど〜」とあいさつされると、どことなく変な感じがするが、あたたかい空気に包まれる。

 「Word of the day」の効果はてきめんだ。

新たな調整法にも手応え

「郷に入れば郷に従え」。今はメジャー流への適応のまっさい中。「今のうちにいろいろ試さないと」。前回初登板した2月27日の登板から、3月終わりまでのオープン戦で試行錯誤を繰り返す。

 報道陣を驚かせたのは、オープン戦初登板の前日。ストレッチを終えて、いつものように別グラウンドに向かいキャッチボールをするのかと思いきや……。上原は別メニューでグラウンドの隅にいた。一向に投げる気配はない。

 どこか悪いのか? それとも、肩の張り?

 練習後、上原はあっけらかんとした表情で記者の前に現れた。

「(登板前にキャッチボールもしないのは)初めてです。(前日に)投げなくてどうなるのか、2日前にブルペンに入ってどうなるのかを試したい。1年間、中4日で投げたことがないですから」

 2回を無失点に抑えたオープン戦初登板の後、上原は「肩が軽かった。入りやすかった」と、前日に完全ノースローだった調整法に手応えを感じている。

 メジャーは日本より試合数が多い。その上、先発投手は中4日の登板間隔で投げる。上原のオープン戦の課題は、もちろんマウンドやボールの問題、打者の分析などあるが、最大の焦点は「1年を通して中4日で投げるための調整法」だろう。

 登板から2日目の3月1日も、キャッチボールすら行わなかった。中4日の中にまったく投げない日を設ける調整法を今後も続けていく。肩は消耗品というメジャーの考えに沿ったやり方。「こっちのやり方に合わせていく。(投げ込まないことに)不安はない」。きっぱりと言った。

開幕2戦目に向けて高まる期待

 メジャーへの適応を模索する一方で、巨人のエースとして君臨した誇りやプライドはまったく色あせていない。オープン戦初登板後、緊張したかと聞くと、「まったくない。10年もやってれば、緊張しないでしょ」。

 愚問を少し恥じた。

 デーブ・トレンブリー監督からはオープン戦に入る前から開幕第2戦目のヤンキース戦先発に指名されている。ブルペン、打撃投手、オープン戦初戦を見守った監督の信頼は早くも絶大で、投手層の薄いオリオールズの救世主として多大な期待をかける。

 本人もそれは百も承知。「自分はルーキーと思われていない」。だからこそ、オープン戦では、シーズンを通して結果を残すために「いろいろ試す」予定だ。

 夜10時就寝、朝6時起床。「日本では考えられない」生活を送る。食事は「なんでもいける」。もちろん、ジャンクフードもOKで、「こっちのホットドックはめっちゃうまい」と、日焼けした顔で無邪気に笑う。

 アメリカに来て3週間弱だが、早くもこちらの生活に適応した模様。

 となれば、

 本業の野球、そして英語。

 日本のルーキー1年目で信じられない活躍をした背番号「19」は、メジャー1年目も同じ背番号でとてつもなく大きな仕事をやりそうな予感がする。

 そのときはナインから「Iine(いいね)」を連発されるに違いない!?

<了>
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著者プロフィール

1978年1月9日生まれ、大分県杵築市出身。上智大卒業後、シアトルの日本語情報誌インターンを経て、スポーツナビ編集部でメジャーリーグを担当。2008年1月より渡米し、メジャーリーグの取材を行う

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