怪物FW大迫勇也は偉大な点取り屋か、メディアの偶像か

小宮良之

超高校級ストライカーとして取り上げられた大迫

大物ルーキー大迫はプロの世界でも存在感を発揮できるか 【写真は共同】

 その日、国立競技場のピッチに立った若者は、不敵とも言える表情を浮かべていた。観衆の大歓声をエネルギーとして体内に取り込んだのかのように、躍動が激しくなった。刹那(せつな)、彼はゴールへのどう猛な欲求をみなぎらせる。
 しつこくマークしてくるDFの動きを、右腕で封じながら切り返すと、緩急の急激な落差で相手のバランスを崩してシュートコースを作った。敵も然る者、2人、3人が目の前に立ちふさがるが、若武者はその壁を体ごと突き破るように前へとボールを運んだ。
「止められるものなら止めてみろ」という気迫がスタジアム全体に伝わると、最後は左足のシュートでネットを揺すった。ストライカーの称号とも言える背番号9が、彼には実によく似合っていた。

 第87回全国高校サッカー選手権大会、決勝。鹿児島城西の大迫勇也は10得点目を決めて1大会での最多得点記録を更新、得点王に輝いた。大迫は「ゴールはうれしかったですけど、勝たなければ意味がない」と自軍が敗れ準優勝に終わったことを悔しがったが、ゴールシーンは多才だった。GKの鼻先を狡猾(こうかつ)に抜いたかと思えば、技巧的ドリブルからサイドネットに放り込み、パンチ力十分の左足ミドルでスタンドを沸かせた。
「怪物FW誕生! Jリーグで大暴れして、近々日本代表に」とメディアも色めき立った。日本代表監督までが手放しで称賛した。
 はたして、18歳の少年は日本を代表する偉大な点取り屋になるのか、あるいはメディアが創り出した偶像で終わるのか。

 大迫は高校卒業後、Jリーグを連覇している王者、鹿島アントラーズに入団している。優れた足元の技術としなやかな体の使い方は高校生レベルを凌駕(りょうが)。かつて鹿島に在籍したFW柳沢敦と比較されるが、相手を背にしながらボールを操り、味方にチャンスを供給する技術には目を見張るものがある。中高一貫で「つなぐサッカー」を体にしみ込ませてきただけに、本人も「パスをつなぐサッカーが好き。ポストプレーを見てほしい」と語る。

大迫はプロで通用するのか

 だが一方で、彼はストライカーとして必要なある種のエゴも持っている。
 鹿島はマルキーニョスを筆頭に、興梠慎三、田代有三ら実績のあるFWを擁し、1年目のポジション争いは厳しくなる。
「出場が見込めるチームに期限付き移籍で出るのもいいのでは?」挑発的な問いかけを投げると、大迫は訝(いぶか)しむような表情を浮かべ、憤然として答えた。
「鹿島はいいFWがたくさんいますけど、自分はそこで勝負するつもりですよ」
 負けん気は大物の証明か。
 選手権決勝で敗れたあと、ロッカールーム全体にむせぶような鳴き声が響く中でも、大迫は一人ぶぜんと怒気すら含んだ表情で敗北に向き合っていた。「涙で負けた痛みを流し去りたくない」とこらえるようだった。プロ顔負けの勝者のメンタリティーか、「自分が決めていれば勝てた」という図太い責任感はゴールゲッターとして頼もしかった。

 大迫は日本サッカーが生んだ大器だ。
 しかし、才能は才能でしかない。プロの世界では、自分の価値を結果で証明した者だけが生き残れる。彼は大人の選手を相手に活躍したわけではないのだ。
 高校選手権は日本固有の素晴らしい大会だが、“参加者限定のユーストーナメント”である。どれだけ得点を重ねても、相手は同年代選手。しかも忘れてはならないのは、現在は身体能力の高い選手がクラブユースに引き抜かれているという事実だ。今大会ではGKとDFの人材枯渇は悩ましいほど。技術レベルは上がっているが、試合の駆け引きはむしろ拙(つたな)くなっている印象で、それ故に派手な試合展開が目立った。

 メッシやクリスティアーノ・ロナウドらは16、17歳にして年齢を飛び越え、大人たちを相手に果敢に挑み、その存在を誇示している。老練な選手たちにあいさつ代わりのタックルをお見舞いされ、プロの洗礼を受けながらも決して負けなかった。倒されても立ち上がるメンタルと相手を出し抜ける技術で道を切り開いた。結果、彼らはひよこ扱いを返上し、一目置かれるルーキーになったのだ。
 プロの世界での大迫は、まだ小僧に過ぎない。

 鹿島の宮崎合宿最終日。JFLホンダロック戦に後半から出場した大迫は背番号34を付け、2得点を記録した。彼に対する期待度はさらに高まった。だが真剣勝負はこれからだ。3月に開幕するJリーグは、大器の今後を占う試金石となる。ストライカーとして無慈悲な洗礼を受け、1シーズンを戦い終えたとき、彼がどんな顔つきになっているか。
「ずっとプロでやりたかったんです。子供のころから点を取るのが楽しくて。もっとうまくなりたい」
 18歳のゴールゲッターは意気揚々だ。

<了>
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1972年、横浜市生まれ。2001年からバルセロナに渡り、スポーツライターとして活躍。トリノ五輪、ドイツW杯などを取材後、06年から日本に拠点を移し、人物ノンフィクション中心の執筆活動を展開する。主な著書に『RUN』(ダイヤモンド社)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)、『名将への挑戦状』(東邦出版)、『ロスタイムに奇跡を』(角川書店)などがある。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント