「夏の久我山」から「冬の久我山」へ=高校サッカー3回戦
「夏の久我山」が真冬の東京で快進撃
田邉草民を筆頭に、今年の國學院久我山には理想とするサッカーを実践するだけのタレントがそろった 【益田佑一】
國學院久我山(東京B)は2000年のインターハイ(全国高校総体)で準優勝を経験するなど、毎年夏に無類の力を発揮する一方で、冬の選手権では県予選で敗退したり、本大会でもなかなか結果が出せなかった。これは進学校独特のものであり、インターハイを最後に受験のために引退する3年生がいたり、「選手権予選の準々決勝や準決勝などで、エースや主力を受験で欠くときが多かった。それで負けてしまったことも正直あった」(李済華監督)。
それでも「勉強とサッカーを両立できることを証明したい」という李監督の下、周りを見てボールを止めて蹴るという基本を徹底し、シンプルにゴールを目指す久我山サッカーを実践し続けた。
そして今年、抜群のアタッキング能力を持ったFC東京入団内定のMF田邉草民、ずば抜けたゴール嗅覚を持つFW川久保理、変幻自在の動きで攻撃の起点となるMF森藤一平、的確なカバーリングとコーチングでディフェンスラインを統率するセンターバックの高橋拓也と、攻守に軸となるタレントがそろい、李監督のシンプルなアタッキングサッカーを実現する土壌が整った。
だが、強烈な個性がそろったあまり、春先はチームとしての一体感を欠き、守備面での連係の悪さから大崩れしてしまうこともあった。特にドリブラーを多く擁するチームには、連係のズレを突かれ、修復不能に陥ることがあった。3月のイギョラ杯の決勝では、横浜F・マリノスユースに何度もドリブル突破を許し、ディフェンスラインを切り崩された。攻撃もロングボールが多くなり、連動性のない単調な攻撃しか出せず、0−3の完敗を喫した。
守備の安定なしでは、攻撃も成り立たない。それ以降、攻撃の精度を高めながらも、守備にもウエートを置いて強化した結果、個の台頭もあり、大崩れはしなくなった。
2試合連続7−1の大勝
田邉(10)と川久保(11)がそろってハットトリックを達成 【益田佑一】
ゴールショーの始まりは、開始わずか2分のことだった。左サイドを突破した森藤の折り返しをエース田邉が決め、これが号砲となった。FW松村和磨のポストプレーに川久保、森藤、田邉がフレキシブルにポジションチェンジして絡み、那覇西守備陣のマークを混乱させる。さらにショートパスを細かくつなぎ、矢継ぎ早に裏のスペースに飛び出しては、ディフェンスラインをズダズダに切り裂いた。
22分には川久保がペナルティーエリア内での田邉とのパス交換から豪快に決めると、27分には再び田邉の折り返しを受けた川久保が3点目。32分には森藤、川久保とつないで、最後は松村が4点目を決めた。
後半9分には那覇西のFW仲田一斗に目の覚めるようなミドルシュートを決められるが、15分に川久保のシュートのこぼれ球を田邉が押し込み、21分にはGKとDFがお見合いしたボールを再び田邉が奪い取って無人のゴールへ流し込んで、ハットトリックを達成した。そしてとどめは24分、田邉のパスを受けた川久保が7点目を決め、こちらもハットトリック。田邉の3得点3アシスト、川久保の3得点2アシストの活躍で、初戦と同じスコアの7−1で國學院久我山が大勝した。
これぞ「久我山サッカー」。今、チームはこれまで冬にあまりできなかった自分たちのサッカーを存分に表現している。ただ、彼らにおごりはない。「勝ったのはうれしいけど、まだミスが多いですね。止めて蹴る、状況判断のミスが多い」と李監督が語ったように、本当の「久我山サッカー」はまだまだこんなものではない。
次なる相手は同じ関東の強豪・前橋育英(群馬)。調子を上げてきているタイガーブラック軍団(前橋育英のユニホームは黄色と黒の縦じま)を相手に、一歩も引かない「久我山サッカー」で勝利してこそ、真の「冬の久我山」の称号を手に入れられる。
もう「夏の久我山」ではない。新たなる歴史を刻むべく、國學院久我山イレブンは準々決勝に挑む。
<了>
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