箱根駅伝、外国人留学生の起用の是非
この時、2区を走ったオツオリは“黒船襲来”を思わせる驚異的な走りを見せた。1区間の長い箱根駅伝では抑え気味のペースで入っていき、そのまま淡々と走っていくことが通例だったが、オツオリは違った。8位でたすきを受けるとハイペースで飛ばし、前を行く選手を次々と抜き去っていく。48秒差でトップを走っていた順大をとらえるまでに要した距離はわずか6キロ。後半に失速し、区間記録更新はならなかったがトップでたすきをつないだ。その積極果敢なレース運びは多くの日本人選手、そして観衆に衝撃を与えるに十分なものだった。
「安易な補強」と批判が噴出、メリットも顕在化
ルール改正を求める声は今なお数多く聞かれる。留学生選手の存在が箱根出場を大きく手繰り寄せるケースや、留学生が走るときのみ先頭争いをして、その後は下位に沈むチームに違和感を持たない人のほうが少ない。
箱根駅伝がメジャー化している今日、出場権をめぐる争いは毎年し烈を極める。それを勝ち抜くためには留学生選手を起用することが最も手っ取り早い方策だ。地道な育成ではなく、そのような安易な補強を許しても良いのかという意見はまさに正論である。
反面、彼ら留学生はレースのスピード化に貢献すると同時に、国内にハイレベルな戦いを持ち込んだ。メクボ・モグス(山梨学大4年)も今夏に行われた世界ハーフマラソン選手権のケニア代表という実力者。北京五輪日本代表の竹澤健介(早大4年)は国内で彼と切磋琢磨(せっさたくま)することで成長してきたことは事実だ。また、留学生選手とともに練習を行うことで山梨学大の選手の力は向上した。現在では日本選手権で上位入賞する選手も出ている。そして北京五輪男子マラソン代表に尾方剛(現中国電力)、大崎悟史(現NTT関西)のOBを送り出した事実も見逃せない。
山梨学大の上田誠仁監督は留学生を大学長距離界に呼び寄せた先駆者であるが、それは“ケニア人選手はなぜ速いのか。彼らを育成し、その秘密を探りたい”という思いがきっかけだったという。しかし現在は彼らから学ぶだけではいけない。彼らに何かを与えられるチームでなければならないと筆者に語ったことがある。
求められる議論の継続
大学は研究そして教育の場であり、山梨学院大の取り組みはその両方を忠実に実践するものだ。その内容を見極めることなく同大の留学生を「助っ人」と呼び、その起用を「勝利至上主義によるもの」と切り捨てるのは公平性を欠く。
箱根駅伝創設には1912年ストックホルム五輪マラソン代表、金栗四三氏の「世界に通用するランナーを育成するために」との思いが込められている。留学生選手の登場から20年。これまで4大学から12名の留学生選手が途切れることなく、新春の箱根路を駆け抜けてきた。彼らの力をどのように日本人選手の競技力向上に生かすか、改めて考え直す時期に来ている。同時に安易な外国人頼みを規制するルールについても再考されるべきだろう。
誰もが納得のいく結論を出すことは不可能に違いない。しかし陸上長距離界が世界との差を埋めるためにも、議論を継続し続けることが求められるのではないだろうか。
※参考までに今年度から全国高校駅伝では最長区間1区(男子10キロ・女子6キロ)での外国人留学生の起用が禁止された。また全日本実業団対抗駅伝でも区間を再編成し、最も短い2区(8.3キロ)でのみ許可されることになった。規制変更にはそれぞれ、「1区で留学生選手が抜け出すと他チームの挽回(ばんかい)が難しくなることを問題視した結果」、そして「安易に外国人選手に頼らず、日本人選手の強化を促す」といった理由が挙げられている。
<了>
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