鉄腕エース、上野由岐子が語る413球の裏側=スポーツナビ・アワード2008大賞受賞インタビュー

スポーツナビ

スポーツナビ・アワード2008大賞に輝いたソフトボール女子日本代表のエース、上野由岐子に悲願の金メダル獲得の裏側を聞いた 【Getty Images】

 1年間のスポーツシーンにおいて、最もわれわれに感動を与えてくれた選手・チームを投票によって決定する「スポーツナビ・アワード」。2008年の大賞には、総得票数の40パーセント以上を占める4万9362票を集め、8月の北京五輪で悲願の金メダルを獲得した、ソフトボール女子日本代表が選出された。

 ソフトボールが正式種目として行われる最後の五輪で、大会3連覇中の米国を破り、初優勝を飾った日本。その立役者となったのが、不動のエース、上野由岐子(ルネサス高崎)26歳だ。上野は世界最速と言われる速球や多彩な変化球を武器に、北京でフル回転の活躍を見せた。特に決勝トーナメント2日間の3試合では、延長戦2試合を含め、計28イニング413球を一人で投げ抜き、その鉄腕と不屈の闘志でチームを世界の頂点へ導くと同時に、日本中を感動の渦に巻き込んだ。

 スポーツナビでは今回、その上野に単独インタビューを行い、北京での激闘の裏側や五輪競技復活を目指す今後について語ってもらった。

4年間積み重ねた準備が悲願の金メダルへ

──ソフトボール女子日本代表が約5万票という圧倒的な支持を集めて、スポーツナビ・アワード2008の大賞に選ばれましたが、それについての感想を聞かせてください

 五輪でも金メダルを取られた方がたくさんいる中で、このような賞を受賞できて大変うれしく思います。これまで一生懸命やってきたソフトボールを、たくさんの方に評価していただき、認めていただいたということは、私にとっても励みになります。応援してくださった皆さんには、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。今回だけで終わらせるのではなく、この受賞をまた今後につなげられたらいいなと思います。

──04年のアテネ五輪では体調不良もあって決勝トーナメントで登板できず、悔しい思いをしたと思いますが、それから北京での金メダル獲得に至るまでの4年間、どのような準備をしてきたのですか?

 4年間といっても本当に1年1年違った、技術面や精神面でいろいろな準備をしてきました。米国に留学してシュートの習得もしましたし、メンタルトレーニングの先生に指導も受けました。そして、(宇津木)麗華監督(ルネサス高崎)には、「ピッチングの配球の仕方」や「勝負へのこだわり方」なども教わりました。そうしたすべての準備が自信になって、北京でのピッチングにもつながったと思います。

──北京では、その新たに習得したシュートのキレが抜群で、非常に効果的に投げられていたと思いますが、大会中、一番自信を持って投げられたのはどの球でしたか?

 やはり、シュートですね。本当に今回、シュートに対する思いというのは特別だったので。(予選リーグなどでは)うまく隠しながら、効果的に投げられたと思いますし、大会終盤に進むにつれて、どんどん良くなっていったと思います。

「勝ちたい!」の気持ちだけで投げた413球

──多くの日本国民がかたずをのんで見守った決勝トーナメント3試合ですが、あの413球はどのような思いで投げていたのですか?

 もう本当にただ、「勝ちたい!」という気持ちだけで投げていました。自分だけではなく、たくさんの方の思いを背負って投げていたので、そのすべての思いに応えるためにも、最後まで投げ切ることだけを考えて、とにかく必死に投げていました。その結果、金メダルを取ることができて、本当にうれしかったですし、チームメートやファンの皆さん、応援していただいたすべての方々に感謝したいと思っています。

決勝で米国を破り、抱き合って喜ぶ上野(右)と峰のバッテリー。互いを信頼し合い、見事金メダルをつかみ取った 【Getty Images】

──その3試合を含め北京では、チーム最年少20歳の峰幸代捕手(ルネサス高崎)とバッテリーを組むことが多かったですが、勝負どころでは上野投手がリードを取ることもあったのですか?

 いえ、峰の出すサイン通りに投げていました。球の出し入れはピッチャーの側でもできますが、配球やリード面に関しては、すべてキャッチャーに任せていました。普段から同じチームでバッテリーを組んでいますし、彼女のことを信頼して、ただミットを目掛けて投げました。

──試合中、峰捕手と話している場面が印象に残っているのですが、どんなコミュニケーションを取っていたのですか?

 試合中は本当にいろいろなコミュニケーションを取りました。リードに悩んでマウンドに来たときは、「私は峰のことを信じて投げるから、峰も自信を持ってリードして!」と伝えました。峰は、年は若いけど、頭のいいキャッチャーなので信頼していました。彼女も「いかに自分を生かせるか」ということを必死で考えてリードしていたと思います。弱い気持ちになったときも、お互いを信頼し合っていたので大丈夫でした。

8年後も現役で投げていたい

──残念ながら4年後のロンドン五輪ではソフトボール競技が行われません。16年五輪での復活が期待される中、今後の目標を聞かせてください

 まずは、ソフトボールの底辺の力を拡大していきたいです。そのためにも、子どもたちへの指導をたくさんして、より多くの子どもがソフトボールに興味を持ってもらえるように頑張りたいと思います。そして、五輪での復活を目指して、いろいろな人と触れ合っていきたいです。

――投手・上野由岐子としての目標はいかがですか。また、8年後を想像して、もし五輪での競技復活が実現したとき、現役で投げていると思いますか?

 自分自身もプレーヤーとして頑張って、ソフトボールへの注目を高めるためにも、たくさんの人を引きつけるようなプレーをしていきたいです。8年後はまだまだ先で、正直どうなっているかは分かりませんが、できれば自分も現役として投げていたいです。また五輪でプレーしたいと思っていますし、ソフトボールの復活も含めて、それが実現できるように頑張っていきたいと思います。

<了>
■上野由岐子(うえのゆきこ)
1982年7月22日生まれ。福岡県福岡市出身。173センチ、72キロ。右投げ右打ち。小学校3年からソフトボールを始め、中学校3年で全国制覇。九州女子高では国体優勝を果たし、卒業後の2001年に日立高崎(現ルネサス高崎)女子ソフトボール部に入部。同年日本リーグの新人賞、02、03、05、08年は最高殊勲選手賞に輝く。日本代表には01年に初選出され、04年アテネ五輪では史上初の完全試合を達成し銅メダルを獲得。世界最速119キロのストレートと、ライズボール、ドロップ、シュートなど多彩な変化球を合わせ持つ日本のエース。
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