トリノ五輪で躍り出たシンデレラガール、藤森由香

岩本勝暁

トリノ五輪では好成績とアイドル並のルックスで注目を集めた藤森由香 【佐藤浩之】

 目の前を滑る2人のライダーが、次々と視界から消えた。転倒した2人に巻き込まれないよう、コースを確保しながら落ち着いてかわす。2位でゴールに滑り込み、握り締めた両手のこぶしを天に向かって高々と突き上げた。

大健闘の成績も「悔しい」

 2006年のトリノ五輪から正式種目に採用されたスノーボードクロス。準々決勝はスタートで出遅れたものの、前を行く選手の転倒もあって2位で準決勝に進んだ。ファイナルこそ逃したが、5−8位決定戦を7位でフィニッシュ。大健闘ともいえる好成績を残した。
 しかし、レース後の第一声は意外にも「ムカつく」だった。納得のいかない自分の滑りに、19歳の無垢(むく)な少女は素直に苛立(いらだ)ちを表したのだ。
「悔しいです。でも、自分の実力がそこまでだったということ。世界のトップ選手たちの中での7位はうれしいけれど、準々決勝もラッキーだった。もっともっと実力をつけて、1位で通過できるように頑張りたい」
 アイドル顔負けのルックスと、芯の通った強さ。藤森由香の名は、スノーボードクロスの魅力とともに、一気にその知名度を広めた。

目指すはバンクーバー五輪

 スノーボードとスキーのレンタルショップを営む両親のもと、物心がついたころから雪に慣れ親しんだ。7歳のときに2つ年上の姉と一緒にスノーボードをはじめた。スノーボードクロスに出会ったのは9歳。レンタルショップでアルバイトをしていたお姉さんに連れられて草大会に出場し、その面白さにのめり込んだ。
「雪上のモトクロス」と呼ばれるスノーボードクロスは、ジャンプ台やバンクなどの障害物が設けられたコースを4〜6名で滑り順位を競い合う過酷な競技。複数の選手が一度に滑走するため接触や転倒も多く、スピードだけでなく相手との駆け引きやコースを読む戦略が要求される。ダイナミックでスリリングな試合展開がときに番狂わせを引き起こすことも、多くのファンを惹(ひ)きつける要因だ。

 中学生になった藤森はシリーズ戦で総合優勝を果たし、プロに交じって数々の大会に出場した。メキメキと頭角を現すと、高校2年でナショナルチームに選ばれワールド・ジュニア・チャンピオンシップに参戦。18歳で初めてワールドカップに出場し、オリンピックの出場をその視野にとらえた。

 トリノ五輪が終わっても、国内外を転戦する多忙な日々を過ごしている。2007年は富良野で行われたワールドカップで7位、今年は韓国大会で8位に入るほか、全日本選手権でも優勝を果たした。
 愛らしい“ゆっちスマイル”は健在。トリノのシンデレラガールが、1年後のバンクーバーで主役に躍り出る。

藤森由香/Yuka Fujimori

1986年6月11日生まれ、長野県小県郡長和町出身。レンタルショップを営む両親のもとで育ち、物心がついたときからスキーに慣れ親しむ。7歳でスノーボードをはじめ、9歳でスノーボードクロスの大会に出場。数々の大会で実戦を積み、実力に磨きをかけてきた。2005年からワールドカップを転戦し、ザースフェー大会で6位入賞。2006年トリノ五輪では7位入賞の好成績とアイドル並みのルックスで注目を集めた。チームアルビレックス新潟所属。

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著者プロフィール

1972年、大阪府出身。大学卒業後、編集職を経て2002年からフリーランスのスポーツライターとして活動する。サッカーは日本代表、Jリーグから第4種まで、カテゴリーを問わず取材。また、バレーボールやビーチバレー、競泳、セパタクローなど数々のスポーツの現場に足を運ぶ。

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