順大の優勝は極めて順当な結果=第83回箱根駅伝総括

小野哲史

1区は学生長距離界エースの独壇場

東海大の佐藤悠基は右足がけいれんしながら、区間賞の走りを見せた 【Photo:杉本哲大/アフロスポーツ】

「本命なき戦国駅伝」とも言われた第83回箱根駅伝は、学生長距離界ナンバーワンランナーの快走で、2日間217.9キロに及ぶ戦いの火蓋が切られた。

 東海大の佐藤悠基はスタートして間もなくトップに躍り出ると、軽快な走りで後続をぐんぐん引き離してゆく。唯一、佐藤悠に食らい付いていた東洋大の大西智也も、2キロあたりまで並走するのが精いっぱいだった。3位グループを形成した残り18校がけん制し合い、ペースがまったく上がらなかったこともあって、レースはますます佐藤悠の独壇場に。10キロ地点でのトップ佐藤悠との差は大西が約1分半、3位以下とは約4分。もはや1区の興味は区間賞が誰かではなく、佐藤悠がどれくらいのタイムをたたき出すかにあった。「実は13キロを過ぎてから右足がけいれんし始めていた」という佐藤悠。しかし、そこからは「気合いで何とか乗り切り」、1時間01分06秒の区間新記録で最初の中継点へと飛び込んだ。

「2枚看板」が貯金をつくった東海大だったが……

 東海大は2区も学生長距離界屈指のランナー・伊達秀晃を起用し、一気に逃げ切りを図った。区間賞こそ早大のエース・竹澤健介に譲る形になったが、伊達は区間2位の安定した走りでその実力をいかんなく発揮。一方、「花の2区」で注目の一人に挙げられていた山梨学院大のメクボ・J・モグスは、20キロまで区間記録を1分近くも上回る驚異的なペースで飛ばしたものの、昨年同様、残り3キロの上りで失速。前回準優勝のチームも往路ではどうにか9位に踏みとどまったが、結局その後は浮上のきっかけをつかむことができなかった。

 佐藤悠と伊達の「2枚看板」で4分11秒の貯金ができた東海大だったが、3区に入るとややペースダウンし、2位以下の各校が猛追を仕掛けてゆく。序盤で17位と出遅れた中大は、「区間新を狙っていた」というエースの上野裕一郎が持ち前のスピードを生かし、前を走る9人を抜いて区間賞を獲得した。また、日大のギタウ・ダニエルや早大の藤森憲秀らも、それぞれがチームの役割をしっかりと果たし、先頭をひた走る東海大との差をじりじりと縮めていった。

“山の神”が降臨

 松岡佑起が区間4位と好走した順大は、このあたりから徐々にエンジンがかかり始め、9位で4区の佐藤秀和に襷(たすき)が手渡された。佐藤秀はかつて、東海大の佐藤悠とともに「ダブル佐藤」と呼ばれた高校陸上界のスター選手だった。しかし、佐藤悠が次々と学生記録を打ち立てる活躍をしていく中、佐藤秀は順大入学後、けがなどで伸び悩んだ。そんな悔しい思いもあり、この日は「自らの復活を賭けたレース」でもあったという。決死の覚悟で臨んだ18.5キロの最短区間を駆け抜けた佐藤秀は、区間記録まであと10秒に迫る好タイムで見事に区間賞。順位を4つ上げ、5区に控えるエースにすべてを託した。

 順大の前にはすでに4校が往路最終区に入っており、1位の東海大とは4分9秒差。さすがの今井正人も「トップに追いつくのは難しいだろうな」と思っていた。しかし、2年連続で大会のMVP、金栗杯を受賞した“山のスペシャリスト”の力はとてつもなかった。2秒遅れでスタートした日体大の北村聡とともに、前との差をまたたく間に詰めていき、2.5キロで4位早大を捉えると、8.3キロでは日大も抜いて3位に浮上。9キロ過ぎには北村を振り切り、ほどなくして2位の東洋大をも逆転した。この段階で今井の頭の中には「頂上(18キロ地点)までにはトップに追いつきたいな」との思いに切り替わっていたという。その言葉通り、快調なペースで飛ばした今井は16キロで東海大に追いつき、ついにトップへと躍り出る。誰が最初に言ったのか、まさに“山の神”が降臨したかのようだった。フィニッシュタイム1時間18分05秒は、今井自身が前回樹立した区間記録を25秒も上回る驚異のタイム。そして、順大は昨年に続き、8度目となる往路優勝を手にしたのである。

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著者プロフィール

1974年神奈川県生まれ。東海大学文学部卒業後、広告代理店勤務を経て、フリーのスポーツライターに。陸上競技の専門誌に寄稿するほか、バレーボール、柔道、サッカーなど幅広い競技を題材に取材活動を続けている

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