1年間、進化し続けた中村学園女子のV2=〜ウインターカップ2006 大会6日目〜

小永吉陽子

どん底からの出発

優勝の瞬間、喜びを爆発させる中村学園女子。ウインターカップ2連覇を達成 【写真提供:(C)日本バスケットボール協会】

 女子は中村学園女子(福岡)の優勝で幕を閉じた。岐阜女子(岐阜)との決勝戦ではエース森ムチャを中心に常に先手を取り、自分たちの強みであるリバウンドを制したことが勝因だ。69−53で試合を制し、2年連続の優勝を果たした。

 キャプテン反町真理子は優勝後の記者会見でこう語った。
「新チーム結成時はとても“全国制覇”だなんて口にはできなかった。昨年ウインターカップで優勝した先輩たちはすごくまとまりがあったけれど、新チームが始まったとき、自分たちは全員がバラバラでまとまっていなかった。日本一とか2連覇とか、冗談でも口にしてはいけないチームでした。ここまで来られるとは夢にも思わなかった」

 今年は常に“優等生”だった先輩たちと比較されていた。昨年度ウインターカップ優勝チームには超高校級と呼ばれたエース藤吉佐緒里(シャンソン化粧品)と司令塔で精神的支柱だったキャプテンの中山明日実(米国・ユタバレーステート大)の2枚看板がいた。二人とも中学校時代から全国大会で実績があり、「日本一」という明確な目標を持って中村学園女子に入学したスーパースター。それだけに吉村コーチの信頼も厚かった。今大会に入ってからも吉村コーチは「今年のチームには“明日実”がいないのが欠点」とメディアに言っていた。それほど、精神的支柱が抜けた存在は大きいと考えられていたのだ。

吉村コーチとの1年間にわたるバトル

最後まであきらめずに向かってきた岐阜女子は、今大会の殊勲チーム 【写真提供:(C)日本バスケットボール協会】

 インターハイは準優勝したものの、国体はベスト8。大会に入って吉村コーチは、今年のチーム力をにらんでのことか、決してメディアの前では「優勝」の二文字を口にすることはなかった。だが、選手たちは「先輩たちのように認められたい」(反町)一心から、「優勝したい」「連覇したい」という言葉を常に前面に出していた。それでも、先輩たちと比較され、怒られる毎日。キャプテンの反町は、準決勝の足羽戦後も吉村コーチからプレイについて“大雷”を受けている。
「決勝を前にしてあんなに怒られるなんて去年はありえなかった。中村に来たことを後悔しそうでした(笑)。でも最後は笑って終わりたかったから、決勝戦は自分なりに頑張りました」

 チームは大会の序盤こそもたついていたが、試合をこなすごとに良くなっていた。特に桜花学園、東京成徳大、金沢総合といった優勝候補が続々と脱落する中で、その冷静な戦いぶりはひときわ光っていたといえる。決勝でエース森は32点、16リバウンドと大活躍。ガードの林が落ち着いて試合を組み立て、反町も要所のリバウンドに食らいついた。2年生の吉田と大畑が勝負所でピシャリと決める度胸の良さもあった。大会を通して、成長するとはこういうことをいうのだろう。

 吉村コーチは「昨年も決勝の舞台に立っている経験が大きかった」と勝因を述べたが、優勝候補と呼ばれたライバルが次々と脱落する今大会、無欲で向かってくる岐阜女子より“勝ち方”を知っていたのが中村学園女子だったと言える。これが「連覇」を達成するチームの強さだ。

連覇という3チーム目の快挙

 吉村コーチは、優勝後のテレビインタビューと記者会見の場でこう語った。

「去年はキャリアある選手たちが多く、全国優勝しなければいけない立場だった。でも今年は中学時代のキャリアのない選手たちばかり。まさか連覇できるなんて考えてもみなかった。そういった意味では、私は今年の優勝のほうがうれしいですね」

 選手たちの胸に、この言葉は届いただろうか。決勝前日までチームを叱責(しっせき)していた吉村コーチが、最後の最後で選手たちに贈った最高の賛辞。この優勝は、1年間叱責し続けた吉村コーチの“作戦勝ち”といえるだろう。

 これまでウインターカップで「連覇」を遂げたチームは、桜花学園(愛知、4連覇、3連覇、6連覇各1回)と昭和学院(千葉、2連覇1回)、そして今回の中村学園女子(2連覇)と3チーム目。男子に至っては、能代工業(秋田、3連覇3回、2連覇2回、4連覇1回)と仙台(宮城、2連覇1回)の2チームしかない。いかに連覇が大変な偉業かがわかる。連覇とは達成した者でないと味わえない喜びや苦労がある。それは、「やり遂げた時にしかわいてこない特別な感情」だと、達成した者は皆そう語る。中村学園女子の面々は、どんな気持ちを抱いたのだろうか。

「達成感というよりは、うちらはメッチャ怒られてばかりいたから、自分たちもやればできるんだと、素直にうれしい気持ちです。あとは運が良かったのかな(笑)」(反町主将)

 1年間を通して進化を続けた中村学園女子に、ウインターカップの女神はほほ笑んだのだ。

<了>
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著者プロフィール

スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者となる。日本代表・トップリーグ・高校生・中学生などオールジャンルにわたってバスケットボールの現場を駆け回り、取材、執筆、本作りまでを手掛ける。

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