五輪出場権を目指す、男子バスケットの行方=NZ戦の悪夢から約1年、32年ぶりの悲願へ

鈴木栄一

NBAでのプレー経験を持つ桜木ジェイアールの加入で注目を浴びる日本代表。32年ぶりの五輪出場なるか 【鈴木栄一】

 7月28日(土)から8月5日(日)にかけて、徳島市で北京五輪アジア予選を兼ねた第24回アジア男子バスケットボール選手権大会が開催される。この予選で北京への切符を獲得できるチームは、わずか一つ。しかし、アジアで頭一つ抜けた実力を誇る中国が開催国枠で出場権をすでに確保しているため、中国を除くチームの中で最も良い成績を残せば良い。そのため、1976年モントリオール五輪以来、32年ぶりとなる五輪出場へ向け、日本は自国開催というホームコートアドバンテージもあり悲願成就の可能性は決して低くない。

「世界バスケ」からの変化

 ニュージーランド戦で試合終了直前に悪夢の逆転負けをくらい、一次予選敗退を喫した世界選手権(=世界バスケ)から約1年。日本代表は、世界選手権終了後にヘッドコーチ(HC)をジェリコ・パブリセビッチ氏から、JBLアイシンの指揮官を務める鈴木貴美一氏に交代し、出直しを図ってきた。鈴木新体制の下、初の国際大会となった昨年12月のアジア大会では6位と満足の行く成績ではなかったが、一方でチームとして練習したのは約1週間という急造集団で上位チームと接戦を演じることができたのは収穫だった。そして今年の4月からは代表としての活動を本格的にスタート、6月下旬から7月上旬にかけての欧州遠征を含め第13次までの合宿を行い、チームとしての成熟度を高めた。

 先日発表されたアジア予選の代表メンバー12人を見ると、9人が昨年の世界選手権に出場している。そして、PG佐古賢一(アイシン)、C青野文彦(パナソニック)、帰化選手のC桜木ジェイアール(アイシン)が、新しく加わった構成だ。昨年と現在の日本代表を比べる時、この3人の存在は大きな違いとなっている。司令塔の佐古と鈴木HCはアイシンでも師弟関係にあり、佐古はHCの目指すバスケットボールを誰よりも理解している選手。37歳という年齢から全盛期のような体力、スピードはないが、安定したゲームメーキングと要所で決めるシュート力はいまだに健在。思い返せば1年前のニュージーランド戦の第4クオーター、日本は一度崩れたリズムを最後まで立て直すことができずに敗れた。試合が悪い流れとなった時、それを断ち切りチームに落ち着きをもたらすことができる選手として、佐古以上にうってつけの司令塔はいないだろう。また、20代前半から中盤という若い選手が大半を占める代表にあって、同い年の折茂武彦とともにチームのまとめ役として欠かせない。

秘密兵器、桜木ジェイアール加入の効果は?

 210センチの青野は、日本一の高さを持つビッグマン。アジアの中でも全体的にサイズの小さい日本にあって機動力やスタミナに難はあるが、彼の高さを生かしたリバウンド力は鈴木HCにとって外せないものだったと推測できる。そして、7月になって帰化申請が認められたことで代表に選出された米国出身の桜木ジェイアール(ジェイアール・ヘンダーソン)は、過去6年間アイシンでJBLを代表する外国人選手として活躍。203センチとセンター(C)の選手としては低いが、それをカバーするスピードと力強さを持っており、これまでの日本代表にはなかったゴール下の安定した得点源として期待できる。また、佐古が「彼の加入でインサイドにボールが入る回数が増える。パスがうまいのでアウトサイドの選手が動きやすくなり、チームに落ち着きが出てくる」と語るように、アシスト能力にも優れた彼の加入は、日本の武器であるアウトサイドシュートの大きな助けとなるだろう。一方で、選手としての能力で言えば申し分ない桜木だが、チームへの合流が大会直前と周囲との連係に不安はある。彼は鈴木HCのアイシンに2001年から所属しており、佐古、柏木真介、網野友雄はチームメート、今年からアイシンに加入する竹内公輔とも4月の前にチーム練習を一緒に行っているという利点はあるにせよ、代表チームはアイシンではない。また、コンディション面についてもずっと日本でトレーニングを行っていたが、実戦からは離れており試合勘についても未知数だ。

実力発揮の鍵を握るのは佐古、折茂

 鈴木HCは、リトアニアU−23代表、ドイツU−23代表、ウクライナ代表などと戦った欧州遠征での成果について「日本はリバウンドが弱い。背が同じでも外国勢と比べると幅が違う。どうやったら線の細い選手がリバウンドを取れるか。リバウンドが取れないのなら、ボックスアウト、ティップオフなどで相手に気持ちよく取らせないようにしなければならない。最初の頃はリバウンドで大差をつけられていたが、最後の3試合は互角だった。パッシングゲームは強化の成果が出て、欧州でも通用した。そしてアウトサイドシュートに関しては、日本の方が確率は高かった」と語っている。遠征の結果は2勝6敗と負け越したが、「遠征ではいろいろと試すために、全試合で全員を使った。遠征での試合は内容がすべてであり、結果は気にしていない。逆にアジア予選では結果がすべて」と述べ、チームの仕上がりに手ごたえを感じている様子だった。

 アジア予選で北京五輪での切符をつかむには、やはり欧州遠征の経験を生かし、リバウンド争いでどれだけ渡り合えるかが鍵となるだろう。リバウンドをしっかり取ることでSG桜井良太(R北海道)やPG五十嵐圭(日立)らを中心とした速攻が出やすくなり、各選手が外角シュートを楽な気持ちで打つことができる。また、インサイドで桜木とコンビを組むことになるPF竹内公輔にも注目だ。「相手がジェイアールにダブルチームに行くと、自分がフリーになると思う」と本人も語っているように、桜木へのマークが集中した時、竹内がミドルシュートをしっかり決めることで相手は的を絞れなくなる。そして何よりも大事なのは、ここ一番の勝負所でいかに平常心を持ち、積極的に攻めることができるかだ。プレッシャーのかかった場面でこそ、これまで数々の修羅場を経験してきた37歳の佐古、折茂の2人の底力に期待したい。

<了>
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著者プロフィール

1977年、山梨県生まれ。アメリカ・オレゴン大学ジャーナリズム学部在学中に「NBA新世紀」(ベースボールマガジン社)でライター活動を開始し、現在に到る。毎年、秋から冬にかけて母校オレゴン・ダックスの成績に一喜一憂している。

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