「歴史的惨敗」は、なぜ起きたのか=北京五輪の切符を逃し、過去最低の8位に

鈴木栄一
「32年ぶりの五輪出場」という歴史的な偉業を目指し、徳島での北京五輪アジア予選を兼ねたアジア選手権に挑んだ男子バスケットボール日本代表。しかし、結果と言えばアジア選手権で過去最低の8位と、悪い意味で歴史的な成績を残す惨敗だった。一次リーグこそ、最終的に2位となるレバノンを破るなど3戦全勝と最高のスタートを切った日本だったが、二次リーグは85対93でカザフスタン、83対93で韓国に連敗。第3戦を待たずして、準決勝進出への望みがなくなるというあまりにも早い幕切れだった。二次リーグ最終戦のヨルダン戦こそ勝利して意地を見せたものの、5〜8位決定のトーナメントでは台湾、カタールに連敗と最悪の終わり方だった。

運命の分岐点だったカザフ戦の第1Q

大会の初黒星を喫したカザフスタン戦から、風向きは悪化した 【Getty Images/AFLO】

 大会を振り返って、もっとも悔やまれるのはカザフスタン戦の第1Q(クオーター)だった。佐古賢一(アイシン)が「1Qの入り方が今日の試合のすべて。ディフェンス、オフェンスともに軽いプレーをしてしまった」、鈴木貴美一HC(ヘッドコーチ)が「最初で受けてしまった。出だしがすべて。最初からアグレッシブなプレーをするようにと選手には指示していたが、足りなかった」と述べたように、攻守に集中力を欠いたプレーで15対26と二桁のリードを許してしまった。その結果として、若いカザフスタンを勢いに乗せ、彼らに実力以上の力を発揮させてしまった。二次リーグ突破を考えた時、過去の実績から考えて韓国は日本より格上のチーム。自力突破での準決勝進出には最低2勝が必要となるだけにカザフスタン戦は勝たなければならなかった。この大会のターニングポイントとなる試合の最初で、中途半端なプレーをしてしまったことは、日本の“ここ一番”での勝負弱さを象徴していた。また、大会のプレビュー原稿で「鍵となるのは、佐古、折茂の37歳コンビだ」と書いた。しかし、開幕から6連戦の日程は両ベテランにとって過酷すぎるものだった。二次リーグを万全のコンディションで挑めたとは言い難く、勝負所で本領を発揮することはできなかった。

「史上最低の成績」の要因は、守備の崩壊

 石川武専務理事は、二次リーグ敗退が決まった直後の記者会見で「世界選手権の時は距離を感じたが、今回はそれほどの距離は感じていない」と述べ、鈴木HCも「中国を除く2位から8位の実力差はほとんどなく、大会ごとに結果が違っている」と、中国以外のアジア諸国との力関係はわずかとの認識を示している。しかし、日本は、1997年の2位を最後にアジア選手権では今回を含め5大会連続で5位以下だ。アジア選手権は、世界選手権、または五輪への出場権を賭けた戦いであり、経験を積ませる場でない“結果がすべて”の大会。そこで10年に渡って、内容はどうあれ結果を残せていないのに、就任1年目の指揮官だけでなく、6年間に渡って代表強化に携わっている人物が距離を感じていないというのは楽観的すぎるのではないだろうか。特に今回は自国開催という地の利があり、試合のスケジュールに関しても日本は最初の2試合は午後3時45分から、その後は二次リーグ終了まで午後8時15分からと固定されたように全チームでもっとも恵まれていた。そんな中で、上位4チームに残れなかったという結果は、日本バスケットボール界の危機というべきにほかならない。

 史上最低の成績に終わった一番の要因は、守備の崩壊に尽きる。ジェリコ・バブリセビッチが率いていた世界選手権時の代表チームには、相手を60点台に抑えてロースコアの展開に持ち込んで勝利する、ディフェンス重視の明確なコンセプトがあった。しかし、今回の代表チームは、二次リーグのカザフスタン、韓国戦でともに93失点を喫するなどディフェンスで踏ん張ることができなかった。今回は相手にイージーシュートの状況を簡単に提供するなど、1年前の代表にあった粘り強さやフットワークの軽さがほとんど見られなかった。日本には個人技で20点、30点をコンスタントに取れるスコアラーはいない。また、コート上の4〜5人がみな精度の高い外角シュートを持ち、ハイスコアリングゲームで相手を圧倒できるほどチーム全体のシュート力は高くない。だとすれば、日本が国際試合で勝つには、相手の得点を出来るだけ抑えるロースコアの展開に持ち込むしかない。しかし、今回の代表にディフェンスへの高い意識があったかと言えば疑問符がつく。日本の生命線はディフェンスであることをもう一度、再徹底させるべきだ。

大ブレークの川村らが育つためには?

折茂の後を継ぐシューターへと成長を見せた川村 【Getty Images/AFLO】

 一方で、明るい話題といえば、クイックリリースのスリーポイントを武器に二次リーグ3試合すべてで二桁得点を挙げた川村卓也(オーエスジー)がその筆頭だ。これまでの日本には佐古とともにチームを支えた37歳の折茂武彦(レラカムイ北海道)を除くと、国際試合で安定した活躍のできるシューターが不在だった。しかし、今大会の川村の飛躍により、日本はようやく折茂の後継者を得ることができたと言える。米国から帰化した桜木ジェイアール(アイシン)は、帰化申請が受理されたのが7月に入ってからで大会直前のチーム合流。実戦から遠ざかっていたことでコンディションは万全でなかったが、インサイドの得点源として奮闘し攻撃のバリエーションを広げてくれた。また、一次リーグで準優勝のレバノンを破ったように、歯車が噛み合ったときの力はアジアトップレベルにひけを取っていない。

 鈴木HCは、今後の課題について以下のように述べている。
「日本の選手たちは、海外の選手たちに比べて試合経験が少ない。今大会は6日連続での試合と過密日程でコンディションの調整が難しかった。普段から試合を多くこなしている選手は、調整の仕方のコツを自分でつかんでいるもの。練習でいくら鍛えても、試合をこなさないと身につかないものがある」
「ルーズボールやリバウンドを何としてももぎ取るといったハングリーさに欠けている。また、選手は一次リーグの格下相手の試合でも全力でプレーしてしまった。二次リーグに備え、力を抜くべきところでは抜くようなしたたかさも必要」
 この分析は的確であり、協会には課題を改善できるような強化プランの作成を一刻も早く行ってもらいたい。

 たとえば、試合経験を積むという面では今年NBAのサマーリーグに中国代表チームが参加したように、日本代表も積極的に海外の試合に参加すべきだろう。また、クラブレベルでも近年参加をとりやめているアジアクラブ選手権に、JBLの優勝チームを参加させるなど、代表、クラブの両方で国際試合を多く組むことが必要ではないだろうか。今回の大敗は、チームとしての失敗もさることながら、選手の経験不足、精神力の弱さとジェリコの時代から言われ続けてきた欠点を克服するための具体的な手を打てなかった強化プランの失敗でもある。川村卓也、竹内公輔(アイシン)と譲次、五十嵐圭(ともに日立)、桜井良太(レラカムイ北海道)、柏木真介(アイシン)など今の日本バスケットボール界には、将来が楽しみな選手が少なくない。しかし、彼らの才能を開花させるためには、しっかりとした計画が不可欠であることを忘れてはならない。

<了>
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著者プロフィール

1977年、山梨県生まれ。アメリカ・オレゴン大学ジャーナリズム学部在学中に「NBA新世紀」(ベースボールマガジン社)でライター活動を開始し、現在に到る。毎年、秋から冬にかけて母校オレゴン・ダックスの成績に一喜一憂している。

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