スラムダンク奨学金もバックアップする宝の原石=ウインターカップ2007 第3日

渡辺淳二

スーパーガードの挑戦

 ウインターカップ期間中の東京体育館には、人気漫画「スラムダンク(集英社)」が描かれたポスターが所々に張られている。スラムダンクの作者・井上雄彦氏と集英社が推し進めるプロジェクト、「スラムダンク奨学金」の告知ポスターだ。それは将来有望な選手に米国でバスケットボールを学ぶチャンスを提供するという取り組み。米国のプレップスクール(高校と大学の中間に位置付けられる学校)に、選手を派遣するというのである。
 そして第1期ただ一人の合格者、福岡第一(福岡)のガード、並里成がウインターカップのコートに登場した。スピード感あふれるドライブインから、いとも簡単にシュートまで持ち込むテクニック。ディフェンスがマークしてきたらチームメイトを自由自在に操るといった展開力。ウインターカップが高校生の大会であることを忘れさせるくらいの卓越した技を次々に披露してくれる。
 無事に初戦を突破し、早くも観客を魅了した並里だが、その第一声はやや自重気味だ。
「昨日、気合が入り過ぎだと監督にしかられました。何でもかんでも自分でやり過ぎる、と。だからチームとして戦うということを約束として、今戦っています」
 中学時代から華やかなドリブルワークを披露してきた並里。高校に入って周りを生かすパスやアウトサイド・シュートを向上させ、「高校界No.1ガード」の呼び名をほしいままにしてきた。そんな並里の課題について、福岡第一の井手口孝コーチはこう指摘する。
「ボールを持ってドリブルする相手に対してはディフェンスできているが、ボールを持っていない相手への対応がまだできていない。あとは、ガードとして周りへの配慮がまだ足りませんね」
 この上なく高い要求ではあるが、それは並里自身が目標を達成しようと本気で突き進んでいることを知っているからだ。
 2年ぶりのウインターカップ制覇――。
 そして、米国への挑戦――。
 ウインターカップでは、並里流のスーパープレーだけでなく、内面的な変化も見られるかもしれない。

ガードとして必要な要素

 女子選手の中で、並里のような華やかなプレーができる選手はなかなか見当たらない。しかし、並里が課題にしている部分を逆に武器にして戦っている選手も決して少なくない。英明(香川)の2年生ガード・東原綾那がその一人である。3回戦で敗れた直後、あふれ出る涙を抑えようともせず、悔しさを言葉にした。
「3年生とはこれが最後の試合、自分が助けてあげたかったのに……。コートの中ではおまえが先生の代わりやぞ、っていつも井上先生に言われているんです。なのに……」
 昨年はシューティングガードとして先輩からパスを受けてシュートを打つのが主な役割だった。この大会では「ポイントガードとしてディフェンスを引き付けて、シュートを打てるようなパスを先輩に出したかった」という。英明の井上晃コーチは「彼女のように、どのような役割でも気配りができる選手というのは、技術的なことを教えただけでは育たない。人間性などがかかわってくるものだと思います」と話し、東原の内面的な長所を見つめていた。

160cmのオールラウンドプレーヤー

 そうした気配りを、中学生のころから感じさせていた選手がいる。一人は、優勝候補・桜花学園(愛知)の主将・佐藤詩織であり、その女子高校界屈指のガードと、どこか似ているように感じるのが樟蔭東(大阪)のフォワード・薮田早紀。2人とも視野が広い、だからこそ周りを生かせる。そしてポジショニングの良さにも、彼女たちの視野が生かされているように思えてくる。
 特に薮田の場合は、身長が高いセンターがいないというチーム事情もあり、状況に応じてオールラウンドにプレーしている。
「ポジションを決めてしまうと、すごく狭い範囲でしかプレーをしなくなってしまう気がします。将来的にはポイントガードとしてプレーしたいという気持ちはあります。でも、今はとにかくプレーの幅を広げたいのです」
 樟蔭東・森田久鶴コーチは薮田を「チームが苦しい時に、何をすべきか分かっている選手」と評する。大阪府予選では32得点を挙げて勝利の立役者となり、この大会でもチームで最も多い得点をたたき出した。だが、薮田の魅力は、ディフェンスをはじめ数字に表れない部分にも及ぶ。
 このあたりも、桜花学園・佐藤詩織に似ているが、彼女たちにはもう一つ、よく似通っているところがある。それは2人ともコート上で、とっても楽しそうなことだ。薮田は、その理由をそっと教えてくれた。
「私って、自分の気持ちが顔に出てしまうほうなのです。だから、私がつらくなるとみんなが暗い気持ちになってしまう。目標は、笑ってプレーし続けることなんですよ!」
 3回戦で敗退した悔しさを心の奥底にしまいこんで、薮田は笑顔を見せた。

 男女問わず、日本はガードの宝庫とよく言われる。ウインターカップの試合に見入ると、その言葉があながち間違いでないことがよく分かる。ガードとして活躍している選手、そしてこれからガードとして活躍していきそうな選手も含めて、そのタイプはさまざまだ。いよいよ大会は中間地点にさし掛かる。ウインターカップが持つ多彩な魅力も、まだまだ尽きそうにない。

<了>
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1965年、神奈川県出身。バスケットボールを中心に取材活動を進めるフリーライター。バスケットボール・マガジン(ベースボール・マガジン社)、中学・高校バスケットボール(白夜書房)、その他、各種技術指導書(西東社)などで執筆。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント