“4冠”東洋大の強さの秘密=明治神宮野球大会リポート

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「ことしは全員で優勝できた」

 9回、東北福祉大・荻堂大輔(2年=沖縄尚学高)の打球をライト・中倉裕人(4年=PL学園高)がつかむと、マウンドに歓喜の輪ができた。その中心には、エース・上野大樹(4年=帝京高)ではなく、鹿沼圭佑(2年=桐生第一高)がいた。この光景が東都リーグの春秋連覇、大学選手権と神宮大会も制しての4冠を達成したことしの東洋大の戦いを象徴するようだ。
 昨年、この神宮大会を制したのは大場翔太(現・福岡ソフトバンク)というスーパースターの活躍が大きかった。しかし、「ことしは全員で優勝できた」と高橋昭雄監督も主将・大野奨太(4年=岐阜総合学園高)も振り返る。初戦となった2回戦の近大工学部戦では、1年生の藤岡貴裕(桐生第一高)が好投し、準決勝(立命大戦)ではクリーンアップを打つ大野が決勝打。そして決勝の東北福祉大戦では2番手でマウンドに上った鹿沼が踏ん張り、トップバッターの3年生・小島脩平(桐生第一高)が試合を決めた。試合ごとに学年もタイプも違うヒーローが生まれるのは、まさに全員で戦ってきた証拠と言えるだろう。
 
 その一体感もさることながら、東洋大ナインは、満足せずに常に新しい目標に向っていくことができる。大野が「選手権で優勝しても満足しないでみんな練習していた。自分が日本代表の遠征でチームを離れて帰って来たら、輝いて見えた」と言うほど懸命に野球に取り組んだ。その貪欲さが今回の優勝につながったのだ。

先を見据える指揮官と先輩が後輩を育てる伝統

 加えて、目の前の勝利だけで終わらないという先を見据えた戦い方にも、強さの秘密がある。6月の大学選手権の函館大戦、東京ドームのファウルグラウンドに藤岡がキャッチボールをする姿があった。当時の藤岡は、「あいつが投げるってことは負けってこと。敗戦処理だから」と高橋監督が話したように、主力ではなかった。ブルペンが室内にある東京ドームにも関わらず、あえてグラウンドでのキャッチボールを命じたのは、「使う気はないが、全国の雰囲気を味わわせたかったから(高橋監督)」だという。
 今大会の初戦、藤岡は近大工学部を6回無失点に封じた。
「全国大会の雰囲気にはすんなり入っていけた」
 藤岡はこの試合をそう振り返った。高橋監督の先を見据えた指示が生きたのである。

 神宮大会の決勝では、3対1で迎えた9回に1死一、二塁のピンチを迎えると、高橋監督はエース・上野の投入を考えたが、マスクを被る大野が鹿沼の続投にこだわった。大野はこれについて「(下級生が)踏ん張ることで次につながると思った。監督には無理を聞いてもらった」と後輩たちの成長のためだったことを明かした。
 結局、鹿沼はその後タイムリーを浴びて1点を失ったものの、後続を断って逃げ切りに成功。大野の期待に応えた。
 大野は普段から「自分は先輩に育ててもらった」と話している。そして、「自分たちも何かを残さなくてはならない」とも言う。先輩が後輩を育てるという伝統が東洋大に黄金時代をもたらしたのだ。

さらなる栄冠へのスタート

 高橋監督は、大野に渡されたというウイニングボールを掲げながら、「こんなの学生が持ってていいんだよ。死ぬ時にみんなに配るよ」と笑った。
「では、みんなに行き渡るようにもっと集めないといけませんね」
 筆者が問いかけると、「(4冠を達成して)もう大分たまったよ」と首を横に振ったが、「おれはキャッチャーを育てるのは得意だから、そこがクリアできれば(来年のチームも)面白いと思うよ」とまだまだ勝つつもりだ。
 3年生で唯一のレギュラーだった小島も「記録的な年の後で、やっぱりプレッシャーはかかると思う。でも、それを継続できるチャンスがあるのも自分たちだけなので、それに幸せを感じてやりたい」と意気込んだ。
 新たな目標は「まず東都の5連覇」と下級生たちは口をそろえる。上級生から4冠という財産を引き継ぎ、東洋大の新チームがスタートを切る。
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