細身ながら“骨太投球”でプロを盛り上げる=プロ野球ドラフト会議リポート〜近大・巽真悟〜

島尻譲

3年春に23奪三振とノーヒットノーラン

福岡ソフトバンクからドラフト1位指名を受けて、チームメートから胴上げされる近大・巽 【島尻譲】

「今はうれしい気持ちでいっぱいです。前向きに考えます」
 今ドラフトの目玉の1人だった近大・巽真悟の交渉権は、外れ1位ながらも福岡ソフトバンクが得た。15時19分、若井基安スカウトから指名あいさつの電話を受け終わった巽は、直立不動で手短に心境を語る。無数のストロボライトを浴び、目を細めていた表情が非常に印象的だった。

 巽は2年春のリーグ戦でデビューを果たし、2年秋には左肩痛の大隣憲司(現・福岡ソフトバンク)に代わって明治神宮大会の先発マウンドを経験した。だが、一気に注目を集めるようになったのは3年春のシーズン。京大戦で関西学生リーグ最多となる1試合23奪三振を記録し、その1週間後の同大戦ではノーヒットノーランを達成。シーズンを通しても4勝、防御率1.13の好成績で最優秀選手賞・最優秀投手賞・ベストナインとタイトルを総ナメするなど圧巻の投球内容だった。
 その後も近大のエースとして3年秋のリーグ優勝や4年春の大学選手権ベスト4に貢献したのはもちろんのこと、日米大学野球選手権や世界大学野球選手権でも日本代表に選出された。

不本意だった大学ラストシーズン

「ストレートを磨きたい」とプロ入りへ抱負を語る巽 【島尻譲】

 そして、ドラフト上位候補と騒がれ続けて迎えた4年秋の大学野球ラストシーズンだったが、結果はあまりにも不本意なものだった。今秋の4勝1敗という数字だけを見れば不本意であったのは分かりにくいが、立ち上がりが不安定で試合中盤まで持ちこたえられずにKOされたのが3試合。リーグ優勝の行方を大きく左右する立命大2回戦では延長17回表に1点をリードして、満を持してリリーフのマウンドに上がったものの、1死しか取れずに2点を奪われてサヨナラ負けという屈辱も味わった。それが防御率2.88という数字に表れてしまった。

 このような投球内容に、新宮高の先輩にも当たる近大の榎本保監督は、「低めに、丁寧にという気持ちばかり。スマートに抑えてやろうとしていて全く迫力がない。こんなんじゃドラフト1位候補とは呼べないですよ」と酷評。巽自身も日ごろの練習方法やブルペンでの調整法を試行錯誤していたのだが、結果が伴わずにもがき苦しんだ。マウンドでの表情や態度もナーバスでピリピリしたまま。結局、リーグ優勝も逃してしまう悔恨のシーズンだったのである。

潜在能力の高さと身体の強さが魅力

 それでも、巽の潜在能力は魅力的。肩、ひじの柔軟性は秀逸で、50メートル走5秒7という快足からも身体能力の高さが分かる。榎本監督も「見た目は細いですが、今季プロで11勝を挙げた大隣よりも身体は明らかに強い選手です。体力面での心配はないと言ってもいいでしょう」と太鼓判を押す。
 となると、あとはその潜在能力をいかにして引き出して、プロの世界で勝負できるかがカギになって来る。
「欠点を直すよりも長所を伸ばす指導をしてほしい。躍動感があって的を絞らせないのが彼の武器だと思います」(榎本監督)
「とにかく原点に戻ってストレートを磨きたい。3年春はカットボールを覚えたばかりで相手も不慣れ。それで記録もできたものだと思っています。プロでやるからには長く現役を続けたいし、周囲から信頼される投手になりたい。そうなるにはやっぱり、ストレートの力とキレがないといけない」(巽)

 巽がプロで飛躍するための第一歩は、182センチ、67キロと細身でスタイリッシュな外見とは対極とも言える“骨太な投球スタイル”。それが大学野球ラストシーズンでもがき苦しみ続けた薄暗い道に射し込む明るい光になるだろう。そして、近い将来、同級生の涌井秀章(埼玉西武)やダルビッシュ有(北海道日本ハム)らとともにプロ野球界を多いに盛り上げる存在になってほしいと強く願う。

<了>

巽真悟/Shingo Tatsumi

 1987年1月10日生まれ。和歌山県東牟婁郡出身。新宮高−近大。182センチ、67キロ。右投左打。小学2年生のときに古座川コンドルスで野球を始める。ポジションは遊撃手と投手。古座中では主に中堅手で和歌山県大会3位の原動力に。新宮高2年の夏から本格的に投手へ転向して、秋の県大会ベスト8、夏の県大会ベスト8。近大入学後は2年春からベンチ入りし、リーグ戦通算19勝4敗、防御率2.05の成績を収めた
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著者プロフィール

 1973年生まれ。東京都出身。立教高−関西学院大。高校、大学では野球部に所属した。卒業後、サラリーマン、野球評論家・金村義明氏のマネージャーを経て、スポーツライターに転身。また、「J SPORTS」の全日本大学野球選手権の解説を務め、著書に『ベースボールアゲイン』(長崎出版)がある。

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