無限の可能性を秘める宮崎商・赤川=10.30ドラフト候補に迫る

田尻賢誉

甲子園で見せた衝撃のスライダー

 試合が、中断した。
 夏の甲子園2回戦・宮崎商高対鹿児島実高戦の8回、鹿児島実高の攻撃でのこと。2死二塁、カウント2−2から赤川克紀が4番・岩下圭に投じた球は、右打者のひざ元へのスライダー。これを空振りした岩下は、打席でしばらく動けなかった。
 空振りした球が右ひざに当たる――。駒大苫小牧高時代の田中将大(東北楽天)、仙台育英高時代の佐藤由規(東京ヤクルト)のスライダーが左打者のひざを直撃する場面を何度か目撃したが、左投手では初めてだ。
 ちなみに、赤川が一番自信を持っている球種はストレート。変化球は「自信がない」という。スライダーは今春の宮崎県選手権でコールド負けした際に「カーブと真っすぐだけでは通用しないと思って、何かひとつでも球種を増やそうと試してみた」ボール。いわば、覚えたての球種だ。
 このスライダーに象徴される、まったく完成されていない“未完”の可能性――。赤川克紀の魅力はそこにある。

 未完成なのは投球フォームも同じだ。中日・山本昌のように背中を丸めるフォームだが、これも「気付いたらああなってました」と意識してつくったフォームではない。それどころか、「この猫背はヤバイですね。直したいんですけど……」と本人も不満顔。投球開始から2.8〜3.3秒(ワインドアップ時)と急いで投げるところと合わせ、まだまだ改良の余地はたくさんある。プロで新たな知識を得て、考えて野球をする習慣がつけば、驚くほどの伸びを見せる可能性は十分だ。

一度決めたことはやり抜くマジメさ

 幸い、その素地はできている。185センチ、87キロという堂々とした体格。「いいことも悪いことも起こるかもしれないけど、その中で気持ちをコントロールすることが大事」と素手でトイレ掃除を繰り返して鍛えた精神力、今夏の宮崎県大会準決勝で延長15回193球を1人で投げ抜いたスタミナ、騒がれても調子に乗らない性格、「左腕が降りたらすぐに上げるように意識している」という打者に見えにくい腕の振り……。1年時は投球の際、右ひざが開く悪癖があったが、学校近くの300〜400段ある階段を20往復するなど徹底した下半身強化で克服した。2年夏の大会で負けて以降は、200球のネットスローを2日に一度行った。一度決めたことはやり抜くマジメさもある。

 気になるのは“いいヤツ”過ぎることぐらい。普段から周りに流されず、もっと自信を持ってマウンドに登れるようになれば、必ずや大きく成長できる。未完ゆえの無限の可能性――。
 赤川を見る楽しみは、これからどんどん大きくなっていくはずだ。

<了>

赤川克紀/Katsunori Akagawa

1990年7月31日生まれ。宮崎県出身。宮崎商高。184センチ、87キロ。左投げ左打ち。左上手から140キロ台後半のストレートを投げ込む本格派。今夏は甲子園に出場し、1勝を挙げる。2回戦で鹿児島実高に1対4と敗れたものの、延長12回を完投。11三振を奪った
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。1975年12月31日、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『智弁和歌山・高嶋仁のセオリー』、『高校野球監督の名言』シリーズ(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動も行っている。「甲子園に近づくメルマガ」を好評配信中。

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