伊東勤氏が読む! 短期決戦を勝ち抜く方法=MLBプレーオフ
愛弟子・松坂を分析「大輔は力の勝負には強い」
松坂はバッテリーを組んで2年目のバリテック(右)と呼吸が合ってきた 【Getty Images Sport】
数字的には素晴らしい成績を収めていると思います。ただ、制球という点で、四死球の数が多い。短期決戦では、その辺が一つのカギになると思います。相手打線がいいということは、ピッチャーも慎重になりがちなので、警戒し過ぎての四球も考えられますけどね。
ピッチングスタイルからいったら、今季はあまり変化球を投げていないんです。基本的には真っすぐとスライダーを軸に組み立てています。「日本で抑えていた当時の投球とあまり変わりがないな」という感じでずっと見ていました。
――西武ライオンズで投げていたときと比べて、ストレート、スライダーのキレはどうですか?
「特に良くなったな」ということはもうないと思うんですよ。ただ、どのボールを使っても、球種豊富で、器用ですから、カウントも整えられるし、勝負にもいけるし、その辺がヤツの強みです。昨季はメジャーが初めてということもあって、キャッチャーのジェイソン・バリテックもいろんなことを要求していたと思います。松坂も自分が投げたいボールが当然あったんでしょうけど、1年目ということで、手探りのところもあったのでしょう。だから私も「若干ピッチングがきゅう屈かな」という印象も持っていました。今季に限っては、本来の彼のスタイルであるストレートとスライダー中心の組み立てで、スムーズに打者に攻めていけてると見えます。
――約100球の球数制限は松坂投手にプラスに働いていますか?
結果的に見ればプラスなのでしょう。本人の中では、最初はストレスが溜まっていたようなところもありましたけど。どちらかと言えば、後半になればなるほど調子を出すタイプですから(笑)。
あまりにも打ち込まれたときは別ですけど、基本的には一人で投げ切るタイプのピッチャーですから。接戦になればなるほど「最後までいかせてくれ」と言うタイプ。最多で160球とか170球ぐらい投げて完投したこともありました。それでも、次の日にボールを握ってキャッチボールしているような投手ですから、本来、投げることが好きなんでしょうね。
――今季は夏に右肩に違和感があって故障者リストに入りましたね
西武で一緒にやっていたときから毎年、細かいアクシデントはあったんですよ。一時期、けっこう長引いたことがあったんですけど、しばらく登板間隔が空いて、(2002年の)日本シリーズでジャイアンツとやったときに、先発させようか悩んだ時がありました。そのときは結局2回登板して打ち込まれたんです。その時は肩の故障でかなり長い時間がかかったんです。今季も僕は正直「もう少し長引くかな」と見ていたんですけど、そんなに今回は気にすることなかったですね。逆にそういうアクシデントがあったおかげで、球数制限に、今は助けられているのかもしれないですね。
――チームメートの岡島秀樹投手のピッチングはどうですか?
もともと日本にいたときはカーブがすごく良かったピッチャー。昨季は真っすぐとチェンジアップ、たまにカーブ、という投球内容だったんですけど、相手の打者も一年通してやって、岡島の球質とか軌道とか把握できただろうし。それ以上に、岡島が意識過剰になり過ぎてしまって。春先に新しいボールを覚えたとか。
僕がずっと見ていて思ったのは、ことし春はカーブをうまく使い切れていなかった。夏前ぐらいからでしょうか、「もうちょっとカーブを多めに使えたらいいと思うのに」という話をしました。それからカーブを使い出して、調子を取り戻しました。確かに、真っすぐのキレは去年と比較したら、今季は若干落ちているんですけど、そこをカーブでうまくごまかしながら、もともと良かったチェンジアップと組み合わせながら、最近は調子を上げてきました。
ドジャースのラミレスが古巣レッドソックス松坂と対戦したら
シーズン途中でドジャースへ電撃移籍したラミレス 【Getty Images Sport】
個人的に見てみたいのは、ドジャース対レッドソックスです。シーズン途中でドジャースに電撃移籍したマニー・ラミレスと、古巣レッドソックスの対決を見てみたい(笑)。途中まで一緒にやっていた選手ですからね、それが敵と味方に分かれて対戦する訳ですから、すごく盛り上がりそうじゃないですか。トレード期限ギリギリの移籍だったので本当に驚きました。日本じゃ考えられないでしょ、さすがアメリカだな(笑)。
――松坂投手がラミレスと対戦することになったら楽しみですね
大輔は振り回すタイプのバッターには力を発揮するんです。技巧派のバッターには意外と弱いところを見せるんですよ(笑)。だから「力と力」の勝負では、大輔は余計力を発揮するタイプのピッチャー。レイズの岩村明憲には意外と打たれてるでしょ(笑)。
――打者では誰に注目していますか?
やっぱり日本人選手、岩村と、カブスの福留孝介ですね。岩村は最近絶好調。1番バッターで、もう少し本塁打を打てる選手だと思うんだけど、今は1番に徹する打撃でチャンスメークをしている。チームのけん引者という意味で、1番は適任かなと見ています。
逆に、福留は春先に好調を維持していたんだけど、やっぱりいろいろ研究されてきて、慣れない土地で、疲労もあって、急激に失速してきましたけど、ただお互いに言えるのは「打つだけの選手ではない」ということ。守備もうまいし、走塁に関してもトップクラスの力を持っている選手ですから。チームへの貢献ポイントは高いと思います。
――そういう意味では、岩村選手が引っ張るレイズと、福留選手が加入したカブスは、共通する部分がありそうですね
昔のメジャーの野球でしたら、「力 対 力」の勝負が当然でした。それが、最近は「きめ細かな野球」をやっているチームがこうやって勝ち抜いてきています。昔からの「力の野球」を貫いているチームもあるんですけど、やはり「ここぞ」という場面では、バントしたり、右打ちしたり、「スモールベースボール」が必要な時代に変わってきたんだなと感じます。
短期決戦で求められる戦い方
短期決戦を熟知した伊東氏ならではの戦い方を語る 【Getty Images Sport】
そうでしょうね。日本人選手は器用さだとか、野球をよく知っていることとか、重宝がられています。ヤンキースは爆発的な力を一番持っている。相手に怖さは当然与える。でも、いつもいつも打てる訳ではない。やはり「打つだけ」ではダメなんですね。「守り」はスランプがないですから。
――最後に、プレーオフの楽しみ方、注目点を一つ挙げてください
プレーオフになると、レギュラーシーズンとは違う「配球」をしていく必要もありますよね。シーズン中は外角中心の配球だったのを、徹底して内角攻めに変えるとか。そういうことも相手打者に意識させないといけない。バッターボックスで「あっ、やっぱりオレには違う攻め方をしてくるな」と思わせることが大事なんです。
僕が西武で、(04年)パ・リーグのプレーオフで、福岡ソフトバンクホークスと対戦したとき、4番を打っていた松中信彦に対して、攻め方を変えると意識させた。そのシーズンの松中は本当に手が付けられないぐらい打ちまくっていた。たとえば、「内角を攻めるぞ」と言っておいて、内角のボールは1球や2球だけで、後は裏をかいてもいいんですよ。徹底して抑え込むためには、「シーズン中とは違う配球をするかもしれない」と意識させるのが大事なんです。そういうキャッチャーの配球の違いを比較して見ることもプレーオフの楽しみ方の一つだと僕は思います。
<了>
■伊東勤/Tsutomu Itoh
1962年生まれ。熊本市出身。埼玉県立所沢高から、81年ドラフト1位で西武ライオンズに入団。頭脳的リードとシュアな打撃で正捕手の座を守り続け、常勝西武の礎を築いた。ベストナイン10回、ゴールデングラブ賞11回、日本シリーズ出場12回を誇る。2003年に現役引退。04年から07年まで監督を務め、就任1年目に日本一に輝く。現在はNHKで野球解説者を務めているほか、共同通信社、ベースボール・マガジン社でコラムを連載するなど幅広く活躍している。