銀メダルの内村、最終種目鉄棒での逆転劇

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し烈なメダル争いを繰り広げた、(左から)内村航平、楊威、冨田洋之の3人 【Photo:北村大樹/アフロスポーツ】

 北京五輪の体操・男子個人総合で、19歳の内村航平(日体大)が逆転で銀メダルを獲得した。日本の個人総合でのメダル獲得は、ロザンセルス五輪で金メダルを獲得した具志堅幸司(現日本男子チーム監督)以来、24年ぶりの快挙だった。
 優勝は、圧倒的な点差をつけた中国の楊威。日本のエース冨田洋之(セントラルスポーツ)は、つり輪でのハプニングで得点を伸ばせずに4位に終わった。
 最終種目で二転三転したメダルの行方。内村、冨田らが繰り広げたメダル争いを、選手のコメントとともに振り返る。
<1種目 ゆか>

 1番手は2005年の世界チャンピオンと場内で紹介された冨田。苦手のゆかだが、最後の着地が乱れた程度で大きなミスもなく終了。15.100でまずまずの出だし。
 ゆかが得意の内村は、ほぼパーフェクトな演技で、着地後には右手を握り締めて小さくガッツポーズ。15.825の高得点を記録した。
 06、07年の個人総合世界王者・楊威は、途中でラインオーバーのミスを犯し、減点されて15.250だった。しかし、この結果にも楊威は右手で小さくガッツポーズ。「ゆかが終わった段階で優勝を確信した」(楊威)という。

 1種目終了時点で上位は、高得点の出やすい跳馬からスタートした選手たち。その中で2位に内村が食い込んだ。冨田は13位で楊威は10位。

<2種目 あん馬>

 予選で落下している内村は、「個人総合はノーミスでいきたい」と話していたが、2回も落下。大きく減点され、13.275の低い点数。これで優勝争いからは大きく遅れてしまった。
 楊威は4人目で登場し、15.275の得点。冨田は安定した演技で15.425。2種目を終え、冨田が楊威と得点で並び、内村は22位まで順位を落とした。

<3種目 つり輪>

 つり輪において、世界で最もAスコア(技の難度を表す)が高いと言われる楊威は、F難度のホンマ中水平、E難度の中水平から十字倒立など高難度技を次々に繰り出して16.625の驚異的な得点をたたき出し、一気に2位へ浮上。
 丁寧な演技をしていた冨田は、ヤマワキで左手が滑って外れてしまい、そのまま落下。コーチが審判団に確認にいくが、終末技(降りる際の技)としても認められずに大きく減点され13.850。
「ヤマワキのところでちょっとすべって、分からなくなってそのままいったら……。どうしようもない失敗」(冨田)

 冨田は左肩あたりをけがしたのか、しきりに左の首筋を押さえ、氷で冷やしていた。得意のつり輪で得点を稼げず、楊威との差は2.775となった。この時点で冨田は21位、15.200だった内村が23位に順位を下げた。

<4種目 跳馬>

 優勝候補のハンブッヘン(ドイツ)はラインオーバーで15.975。跳馬も得意の楊威は、着地で一歩後ろに出たが16.550の高得点を記録。
 4人目の冨田は着地で一歩後ろに踏み出し、15.700の得点。17位と苦しい戦いが続く。
 5人目の内村は、会心の跳躍で着地後には笑顔が見えた。16.300の高得点で、一気に13位に浮上した。

 4種目終わって、楊威がトップに躍り出た。冨田との差は3.625、内村との差は3.100。日本勢の優勝は苦しい状況だが、得意の平行棒と鉄棒でばん回を狙う。

<5種目 平行棒>

 楊威はF難度の屈伸ベーレ、ベーレなどの高難度技を繰り出し、16.100の高得点。着地後は、金メダルを確信したのか、右手を2度突き出してガッツポーズを出した。

 冨田も屈伸ベーレ、E難度のドミトリエンコなどの高難度技をしっかり決め16.000の高得点。楊威との差は3.725と広がったが、9位。内村ものびのびとした演技で15.975の高得点。4位に浮上し、最終種目の鉄棒にメダルの希望をつないだ。

<6種目 鉄棒>

 5種目終了時点の順位と得点は以下。
 1位:楊威(中国)、79.800
 2位:ヤン・テヨン(韓国)、77.300
 3位:セルゲイ・ホロホルディン(ロシア)、76.650
 4位:内村、76.575

 最終種目にメダルの行方が懸かっている。
 最初の演技者は、この時点で3位のホロホルディン。採点に時間がかかったが、15.050と思ったほど点数が伸びない。
 2人目の冨田は、F難度のコールマンなどを決め、最後は伸身の新月面。きれいな着地の後、上げた両手を握りしめ、観客の声援に応えた。
「最後まであきらめずにというのが、今日の一番の目標。やるだけのことはやった。あとの演技に関しては良かったと思いますし、つり輪でハプニングがあっただけで、練習してきたことに関しては出せた」(冨田)
 冨田はこの時点でトップに立った。

 冨田の演技が終了後、あん馬では5種目終わって2位だった韓国のヤン・テヨンが演技を行うが、旋回で足が開くなど不安定な演技。
 ヤン・テヨンの判定を待つ間に、内村が鉄棒の演技。E難度の屈伸コバチ、D難度のコバチ、F難度のコールマンを立て続けに決めて15.400をマーク。
 ヤン・テヨンのあん馬の得点は14.300と表示され、この結果、内村が冨田を逆転して1位に立った。冨田は2位。

 続いて鉄棒の世界王者ハンブッヘンが演技。逆転のメダル獲得を懸けて臨むが、コールマンで左手をつかみ損ねてまさかの落下。15.400で5位と、内村を逆転するにはいたらない。
「完ぺきに演技できたらメダルのチャンスがあっただけに、落下したときはとても失望した」(ハンブッヘン)

 ここで、ノーマークだったフランスのカラノベが跳馬で1位となる、16.600の高得点を出して一気に2位に浮上。
 この時点で1位が内村、2位がカラノベ、3位に冨田と続く。

 最後の演技者はダントツトップの楊威。「鉄棒は一番弱い種目」という楊威。「最終種目で失敗したくないと考えた」(楊威)ため、落下の危険がある離し技をほとんどやらず、14.775。低調な記録だが、リードを守り切って中国に12年ぶりの個人総合のタイトルをもらたらした。

 優勝候補の一人だった冨田は最終的に4位と、つり輪のハプニングに泣いた。
 19歳の内村が逆転で2位。
「平行棒が終わって4位で、ほかの上位の選手が最後の種目が(点数が出にくい)あん馬だったので、これはもしかしたらいけるかなと思っていました。個人総合は6個やってどうかというところ。体操は6種目なので、体操で世界の2番ということはすごく自信になります」(内村)

<体操 男子個人総合 最終順位>
1位 楊威(94.575:中国)
2位 内村航平(91.975)
3位 カラノベ(91.925:フランス)
4位 冨田洋之(91.750)

<了>
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