松坂大輔 、力から技への変貌

阿部太郎

不思議な松坂評価

ホワイトソックス戦で8回を1失点に抑え13勝目を挙げた松坂 【Photo:ロイター/アフロ】

 今季の松坂大輔の成績。13勝2敗、防御率2.90。

 この数字を見れば、10人が10人、素晴らしい成績だと口をそろえるだろう。だが、実際に松坂を担当している現地の記者に話を聞くと、歯切れのいい言葉は出てこない。少しトーンダウンした声が聞こえてくる。

 たとえば、『MLB.COM』のイアン・ブラウン氏からは、「不思議だね」との応えが返ってきた。「素晴らしい成績を残しているし、防御率もいい。だけど、実際見ると、球数は多いし、四球も多い。それが彼をつらい状況にさせている。あとは彼が投げるときはいつもブルペンの負担は大きいね」

 それとまったく同じ解答が、ほかの現地記者からも聞こえる。リピートしているみたいに……。不思議だ。

メジャーで生き抜くため要所を抑える投球術

 9日(現地時間)、松坂がシカゴのU.S.セルラー・フィールドのマウンドに立つと、前述のブラウン氏の発した言葉の一端が分かった。この日は、今季最長の8回を投げて1失点。これまた数字を見れば、快投乱麻のピッチングというイメージがつきそうだが、内容はそれとは大きく異なる。8回のうち3者凡退に抑えたのは6、7回だけ。さらには、先頭打者を四球、または死球で歩かせること4度。圧巻の投球というよりも、なんとか持ちこたえたという表現の方がより即している。こうした内容に、現地記者の「?」は募るのだろう。

 だが、松坂本人は試合後、この日の投球を「自分らしさが出た試合」と評価した。その「らしさ」とは、「粘り強く投げることができた」ということだろう。

 つまるところ、今季の松坂大輔という投手の持ち味は、バッタバッタと三振を奪い、相手の打者に付けいるスキを与えない投球ではなく、要所要所を抑えて最少失点で切り抜けることではないか、と私は思う。その証拠に、完投試合や2けた三振は1度もない代わりに、得点圏での被打率はリーグトップ(最良)の1割9分8厘。多くの記者も、昨季の松坂と比べて「大崩れしない」、「ビッグイニングをつくらない。悪くても持ちこたえる」ことを改善した点に挙げている。松坂自身もそのことを大切にしているはず。だからこその「粘り強さ」である。今季は「深いイニングまで投げず、先発の役割を十分果たしていない」という批判がつきまとうが、逆に5回未満での降板は過去20試合の先発登板でわずか2度だけ。その1つは右肩故障からの復帰登板であり、試合をつくれなくても、試合を壊さない投手と言える。

常に“怪物”のイメージがつきまとうが……

 怪物、100億円右腕、DICE−K……。日本球界からメジャーに渡った昨季にかけて常につきまとった豪快なイメージとは対照的に、今季の松坂は少し離れたところにある。昨年の方が、いわゆる「支配的」なピッチングは多かった。昨年5月のタイガース戦ではメジャー初の完投試合。7月のインディアンス戦では、昨季「サイ・ヤング賞」に輝いたC・C・サバシア(現ブルワーズ)に投げ勝った。
 しかし、シーズンを通しての成績は15勝12敗で、勝ち越し数はわずか「3」。ことしは、先ほども触れたようにホワイトソックス戦の8イニングが今季最長だが、今のところ13勝2敗で勝ち星が「11」も先行している。ホワイトソックス戦での奪三振はわずか4つだけだったが、併殺打は4つも取り、チャンスの芽を摘んだ。明らかに、松坂の「進化」が見えた。

 そして、松坂の「進化」を見てとれるエピソードがもう一つ。ホワイトソックス戦の試合後、米国人記者から質問が飛んだ。「交代を告げられたときに、監督に9回も投げさせてもらうように説得しましたか?」

 松坂は照れくさそうに、こう応えた。

「いや、最近は何も言わないです」

 ピッチングとは裏腹に、ここでは松坂らしい「粘り」が見られなかった。

<了>
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著者プロフィール

1978年1月9日生まれ、大分県杵築市出身。上智大卒業後、シアトルの日本語情報誌インターンを経て、スポーツナビ編集部でメジャーリーグを担当。2008年1月より渡米し、メジャーリーグの取材を行う

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