ヤンキースが進めた補強とレッドソックスが下した決断=MLBニューヨーク通信
“勝者”を獲得したヤンキース
ヤンキースは経験豊富な捕手、イバン・ロドリゲスを補強した 【Getty Images/AFLO】
例年この時期は忙しいヤンキース、ことしも松井秀喜の穴埋めにハビエル・ナディー外野手、ホルヘ・ポサダの代役としてイバン・ロドリゲス捕手、開幕直後からの課題だったリリーフ左腕役にはダマソ・マルテ投手をそれぞれ獲得した。
大きな代償なしに弱点をそれぞれ補修できたことの意味は大きい。特にナディーは移籍後、期待通りに快打を連発。復帰をもくろむ松井もタンパに移動してリハビリを加速させる意気込みだが、チームは松井抜きで戦うための戦力補充をほぼ完了したと言っていい。
一連の補強策の中で最もインパクトが大きかったのは、やはり将来は殿堂入り間違いなしの名捕手、“パッジ”・ロドリゲスの加入だろう。
「僕はウィナーだ。そして勝つためにここに来たんだ。これから先も僕はずっと勝者であり続けるつもりだよ」
現地時間7月31日の入団記者会見で笑顔でそう語った通り、パッジの勝者としての経歴はお墨付きである。
マーリンズ時代の2003年にはヤンキー・スタジアムで世界一に輝き、タイガースに在籍した2年前にもワールドシリーズ進出。その存在感だけでチームのレベルを上げられるリーダーであり、デレック・ジーターらと並び「勝利の使者」の称号が似合うメジャーでも数少ない男である。
「シーズン中に新たな正捕手を獲得するという動きは危険だ。特にパッジは実はリード面の評価はそれほど高い選手ではないだけに、気心を知った(ホセ・)モリーナ捕手の方を好む投手も多いかもしれない」
元メジャーリーガーのビリー・サンプル氏(現「MLB.TV」解説者)がそう漏らしていたように、新天地ではしばらくはバッテリー間のコミュニケーションに苦しむ場面も見られるかもしれない。
さらにパッジも36歳を迎え、以前から疑問視されたリードのつたなさだけでなく、自慢の肩にも衰えが見える。現時点で守備力ではモリーナが上なだけに、パッジの先発機会が徐々に減っていくこともあり得るだろう。
だがその一方で、百戦錬磨のパッジの経験がシーズン終盤戦で生きる場面は必ずあるはず。ヤンキースが逆転でプレーオフに進むために、プエルトリコ出身の2人の捕手がどんなハーモニーを奏でるかは重要な要素となりそうだ。
ヤンキースにとって最大の影響はラミレスの移籍
時をほぼ同じくして、宿敵レッドソックスも関係者の度肝を抜く大トレードを敢行。これまでヤンキース投手陣を散々苦しめて来た強打者マニー・ラミレスが、ボストンを去ってドジャースに移籍することになったのだ。
「僕は驚かなかったよ。ボストンを幸福に去る選手はそれほど多くはない。レッドソックスは必要とあればいつでも功労者を切るんだ」
元レッドソックスのジョニー・デーモンは、古巣を襲った激震について珍しく厳しい口調でそう語っていた。その言葉通り、レッドソックス側のケアが至らなかったのか、それとも単にラミレスがわがままを通したのか、この途方もないトレードがまとまった真相は分からない。
だが1つだけ確かなことがある。これでレッドソックスがアメリカンリーグ東地区に築いた1つの時代が、ひとまず終わったということだ。
ラミレスはこれまで常にレッドソックス打線の中核にいて、重圧などどこ吹く風で大試合でも打ちまくってきた。結果として、彼らは過去4年間で2度もワールドシリーズを制覇。傍若無人なラミレスは、紛れもなくボストンの歴史を変えた立役者の1人だった。
今後その代役を務めることになるジェイソン・ベイも好打者だが、ラミレスのように相手投手のプランを根本から変えさせる選手ではない。デービッド・オルティーズ&ラミレスという球史に残るデュオなしで、これまでの得点力と威圧感を保てるかどうか、レッドソックスはこれから再び証明せねばならなくなったのだ。
果たしてア・リーグ東地区の結末は?
「マニーはこれまで私たちを散々打ちのめしてきた。その不在が彼らのラインアップを変えることは確かだよ」
ラミレスは特にヤンキース戦では通算打率3割2分1厘、55本塁打と猛威を振るってきただけに、マイク・ムシーナのそんなコメントにも実感がこもっていた。
8月3日までのエンゼルス4連戦を終えた時点で、ヤンキースは首位レイズまで「5.5」ゲーム、2位レッドソックスまで「2.5」ゲーム差。
最悪でも地区内で2位となればワイルドカードが視野に入るだけに、レッドソックスの状況が自前の補強以上にヤンキースの今後に影響を及ぼす可能性は高いと言えるだろう。
いずれにしても、この波乱のトレード期限を終えて、ア・リーグ東地区はさらに混沌(こんとん)とした感がある。
レイズはトレードを思い止まり、ヤンキースは地道な補強を展開し、レッドソックスはチーム史を再び変えかねないほど重要な意味を持つダイスを振った(振ることを余儀なくされた)。そして、シーズンは残り2カ月弱———。
近年まれに見る混戦となった08年シーズンを終えたとき、今回のトレード期限はターニングポイントの1つとして記憶されることになるのだろうか。
<了>
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ