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歴史に残る激闘となったヤンキー・スタジアム最後の球宴
2008年MLBオールスターゲーム総括

球宴史上最長4時間50分の激闘

歴史に残る激闘の末、アメリカンリーグが延長15回に及ぶ試合を制した
歴史に残る激闘の末、アメリカンリーグが延長15回に及ぶ試合を制した【Getty Images/アフロ】

「ニューヨークだからこそ、自分にとっては余計に意味深いことだよ」

 試合後の囲み取材から解放されたスコット・カズミアーがそう漏らしたとき、時計の針は7月16日の午前2時(現地時間)を回っていた。試合時間、4時間50分。79回目を迎えたオールスターゲームの最長試合時間記録を更新する総力戦、カズミアーはその勝利投手になった。


 1923年にオープンしたヤンキー・スタジアムにとって、最後の球宴になるだけではなく、ニューヨークはドラフト1巡目で指名されたメッツのフランチャイズ。球史に残ると言われるような大失敗トレードをしなければ、彼はタンパベイではなく、ニューヨークの顔の一人になっていたはず。24歳の大黒柱カズミアーに特別な感情が沸き上がったのは、そんな理由があるからだ。


 試合に先立って行われたセレモニーも、さん然と輝く歴史の最後を飾るにふさわしい伝統の重みを感じさせる特別なものとなった。この球場を舞台に10回のワールドシリーズ優勝を果たしたヨギ・ベラを始め、総勢52人の殿堂入りの名選手がフィールド上に姿を見せた。ヤンキー・スタジアムから、これもまた特別なオーラが発散されているような気がした。

イチローは自慢の強肩を披露

1安打に加え、守備でも“レーザービーム”で魅せたイチロー
1安打に加え、守備でも“レーザービーム”で魅せたイチロー【写真は共同】

 ベン・シーツとクリフ・リーの先発で始まった試合は、その“ルースが建てた家”がまだ壊さないでくれと言っているかのように、強打や激投、ファインプレーやイージーミスを散りばめながら果てしなく続いていくような形で進んだ。


 先行したのは1引き分けを挟んで10連敗中のナ・リーグ。マット・ホリデーの一発が5回表に飛び出した。しかし、球場を最初に沸かせたのは、イチローの素晴らしい守備だった。4回表、アルバート・プホルスのライト線二塁打になるはずの打球を素早く処理し、二塁に目がけてレーザービーム。


「あの場面でああいう打球がくるのが、ボクだと思った。気持ちが良かった」と、8年連続出場のイチローは語った。


 6回表にランス・バークマンの犠牲フライで2点差とされたア・リーグは、7回裏にヤンキースの天敵レッドソックスのJ・D・ドリューが2ランを放ち、同点に追い付く。両チームともオールスターならではの小刻みな継投。一流投手が1イニング、あるいは2イニングスを全力で投げるのだから、どうしてもロースコアの試合になりがちだ。それでも8回表、ナ・リーグはミゲル・テハダのライト前ヒットを足掛かりに、エイドリアン・ゴンザレスの犠牲フライで1点を勝ち越した。

クールな福留を熱くさせた夢舞台

ライバルの本拠地でMVPを獲得したレッドソックスのドリュー
ライバルの本拠地でMVPを獲得したレッドソックスのドリュー【Getty Images/アフロ】

 しかし、試合は終盤にさらにもつれる。ア・リーグは8回裏、新人エバン・ロンゴリアのタイムリー二塁打で試合を振り出しに戻し、3−3のまま延長に突入したのだ。双方とも、毎回のように得点圏に走者をにぎわせながら決定打が奪えない。特に、ナ・リーグは二塁手のダン・アッグラが延長に入って3エラーという信じられない守備の乱れを見せ、余計な塁を与えて苦しくした。投手が底をつき始め、クリント・ハードル監督は、自軍ロッキーズのアーロン・クックに3イニングスを投げさせる苦しい投手起用を強いられた。


 対するテリー・フランコーナ監督も1回限定のオリオールズの守護神ジョージ・シェリールを2回1/3も投げさせ、延長15回にはとうとう登板予定のなかった中1日の先発投手カズミアーをマウンドに上げたのだった。


 そして、そのカズミアーが無失点で抑えた裏の攻撃で、この回から登板したブラッド・リッジを攻め、ジャスティン・モルノー、ディオナー・ナバロのセンター前ヒット、ドリューの四球で満塁とし、マイケル・ヤングがライトに飛球を打ち上げて、4対3でサヨナラ勝ちを収めたのである。その結末もライトのコリー・ハートの返球を受けたブライアン・マッキャンのタッチがわずかにおよばずというスリリングなもの。スタジアムの伝説に加わることが間違いない見事な幕切れだった。


 風邪で体調の思わしくないティム・リンスカムを除く63人の選手が出場した総力戦。MVPには同点本塁打を含む2安打のドリューが初出場ながら選ばれた。ヤンキース勢はジーターが1安打を放ったが、アレックス・ロドリゲスは沈黙。守護神マリアーノ・リベラには普段見られないような力みが感じられ、地元開催でヒーローにはなれず、大舞台でライバルチームの選手に花を持たせるような皮肉な結果となった。


 それでも、特別なオールスターゲームだったことに変わりはない。初出場の福留孝介は2打席無安打に終わったが、試合後に珍しく高揚感を見せながら「全体的にフワフワした感じだった」と印象を語った。

 ヤンキー・スタジアム最後の夢の球宴は、いつもはクールな男でもさえも、変えてしまったのである。


<了>

出村義和

スポーツジャーナリスト。長年ニューヨークを拠点にMLBの現場を取材。2005年8月にベースを日本に移し、雑誌、新聞などに執筆。著書に『英語で聞いてみるかベースボール』、『メジャーリーガーズ』他。06年から08年まで、「スカパー!MLBライブ」でワールドシリーズ現地中継を含め、約300試合を解説。09年6月からはJ SPORTSのMLB実況中継の解説を務めている

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