歴史に名を残したアラゴネス

 昨年のギリシャ戦、アラゴネスはレアル・マドリーから1人も代表に招集しなかった。これは94年以来の“事件”であり、この挑戦的な“外交”は物議を醸した。
 もともとアラゴネスは2006年に退任しているはずだった。ワールドカップ(W杯)・ドイツ大会で、ベスト8に残れなかったら辞任すると本人が言っていたからだ。スペインは素晴らしいスタートを切ったが、ベスト8の手前でフランスに敗れてしまった。しかし、アラゴネスは考えを変えて留任した。世論は退陣を要求していたにもかかわらず。

 ユーロ2008の予選も大苦戦だった。スウェーデン、北アイルランドに連敗し、アイスランドに辛くも引き分け。『マルカ』紙の調査では4万人のうち84.18%が、「このチームはユーロ2008本大会でプレーするにふさわしくない」に投票した。
 しかし、アラゴネスは弱るどころか新たな敵も作り出した。テレビカメラに差別発言を映されて、大きな問題に発展している。彼はレジェスを発奮させるために、レジェスのアーセナルでのチームメートであるティエリ・アンリについて、こう言ってしまったのだ。

「あの黒いクソ野郎に、お前の方が優れていると言ってやれ。目の前で言ってやるんだ。俺からの言葉だ。いいか、自分を信じるんだ。お前はあの黒いクソよりも上なんだ」

 調査の結果、UEFA(欧州サッカー連盟)から3000ユーロ(当時約42万円)の罰金と、今後同様の言動があれば、さらに厳しい措置がとられると言い渡された。その後、アラゴネスは自身が差別主義者ではないと弁明し、マジョルカ監督時代に選手だったサミュエル・エトーからの援護もあった。
「ルイスにとって、あれは彼のやり方なんだ。どの選手にも毎試合ベストを尽くすことを要求し、士気を高めるためにいろいろな手段を使う。それで確かに選手はよくなるんだ」

 ドイツW杯から2年弱で、スペインは劇的に変化した。アラゴネスが用いた戦法はハンドボールのものだ(スペインは世界のハンドボール強国)。“ティキ・タカ”と呼ばれるスタイルは、ボールを保持して右から左、左から右と動かし、相手を走り回らせる戦法である。
 アラゴネスはスペイン代表監督に就任したとき、「バルセロナのようにプレーしたい」と語ったが、彼はその目標を達成したことになる。スペインはユーロ2008のベストチームとなり、当然のように優勝した。そして今、スペインの人々は「ルイスよ、残れ」と声を上げている。サッカーでよくある手のひら返しだ。

<了>

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著者プロフィール

1965年10月20日生まれ。1992年よりスポーツジャーナリズムの世界に入り、主に記者としてフランスの雑誌やインターネットサイトに寄稿している。フランスのサイト『www.sporever.fr』と『www.football365.fr』の編集長も務める。98年フランスワールドカップ中には、イスラエルのラジオ番組『ラジオ99』に携わった。イタリア・セリエA専門誌『Il Guerin Sportivo』をはじめ、海外の雑誌にも数多く寄稿。97年より『ストライカー』、『サッカーダイジェスト』、『サッカー批評』、『Number』といった日本の雑誌にも執筆している。ボクシングへの造詣も深い。携帯版スポーツナビでも連載中

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