聖守護神カシージャスの“内なる狂気”=スウェーデン 1−2 スペイン
内なる狂気が暴れだす
スペイン代表の最後方から味方を鼓舞するGKカシージャス 【Photo:アフロ】
しかし、ピッチに入ったGKはFWもたじろぐほど、“いい人ではなくなる”。
内に眠る狂気が目を覚ますのか。ゴールマウスではいつもぶつぶつと口元で何かをつぶやき、ピンチを招いたシーンで仲間を殴りかからんばかりにしかりつけたり。一種の暴力性は、内にある狂気が暴れ出した状態と言える。あるいは本能と理性のはざまで激しく揺れているようにも映る。
それはネガティブな性癖とも言えるが、一方で狂気を生来的に持たない人間はGKに向かない。あまりのプレッシャーに、心も体もつぶれてしまうのだ。
“いかに狂気を飼い慣らし、平常心でいられるか”、それが優れたGKの条件とも言える。
スペイン代表とレアル・マドリーの類似点
スペイン人スポーツ記者たちは、「チェフ、ブッフォンは確かに優れたGKだ。しかしナンバーワンはカシージャスだ。彼らがもしマドリーのゴールを守ったら、ひどい目に遭うだろう」とうそぶく。それは的確に当たっていなかったとしても、大きく外れていない表現と言える。それほど、マドリーにおけるカシージャスの存在は大きい。
実は、スペイン代表の状況はマドリーのそれによく似ている。ユーロ直前のペルー戦、アラゴネス代表監督が「ディフェンダーはディフェンスをしてから攻撃を考えろ! サイドバックが両方上がってどうやってゴールを守るんだ。バランスを考えてプレーしなければ墓穴を掘るぞ」と、攻撃しか頭にないサイドバックをたしなめているが、チーム全体の守備意識はお世辞にも高いとは言えない。守備にはもろさがある。
「死力を尽くして戦い、後は幸運を祈る」
ユーロ本大会、聖守護神に神の加護はあるのか。
――スペイン代表は国際大会では20年以上にわたり、期待されながらもベスト8を突破できていない。この“呪い”を解くにはどうしたらいいか。
ある記者の質問に、カシージャスはさらりと答えている。
「死力を尽くして戦い、後は幸運を祈る。それしかない。特効薬なんてない」
砦を守る静謐(せいひつ)な衛兵の本性が現れる。それが敵の進軍を止める神であれ、はたまた悪魔であれ。内なる狂気は、彼をおごそかにも妖(あや)しく変身させる。
<了>