「求ム、魂!」 開催国の危機=スイス 0−1 チェコ

中田徹

どこかぬるい観客席

 ユーロ2000では開催国ベルギーがグループリーグで姿を消したが、このときは共催国オランダがベスト4まで行ったので、ユーロのお祭りムードは大会終盤まで続いた。オランダのいない決勝戦は、ロッテルダムに涙雨を降らせたが、フランスとイタリアの大熱戦が寂しさを吹き飛ばした。
 ユーロ2008は、(まだ試合をしていないオーストリアには失礼かもしれないが)共催国共倒れの大ピンチだ。オーストリアはグループリーグ突破以前に、大会で1勝することが目標のチーム。だからオーストリアでは、「われわれは開催国出場権を返上すべきではないか。その方が大会のレベルが上がる」という議論があったほどである。

 スイスはユーロ2008出場国16チーム中、FIFA(国際サッカー連盟)ランキングで15位(16位はもちろんオーストリアだ)。それでもユーロ2004では若手が芽を出しはじめ、2006年W杯では決勝トーナメント進出を決めた(ベスト16でウクライナにPK負けしたものの、4試合で無失点だった)。
 これまではユーロ2004でも、2006W杯でも、スイス代表には国を代表して戦うプレッシャーはあったはずだが、サッカー中堅国を自覚しているだけに、絶対に勝たなければいけない“責任”とは無縁だったはず。しかし今回は開催国としてグループリーグを突破する責任を背負っているのである。

 サッカー大国なら大会ごとに経験する“責任”を背負ってビッグイベントを戦うということを、スイスは最近では初めて、今大会で経験している。ピッチ上では選手が期待に応えようと必至に戦っている。サポーターだって一生懸命なのだろう。しかし、どこか観客席がぬるい。
 80分、1点を追うスイスはバルネッタとフォンランテンが強烈なシュートを放つ。その直前のプレーは、どことなくチェコにハンドがあったような感じだったが、スイスサポーターは確信を持てなかった。しばらくして場内のオーロラビジョンに、シュトレラーと競り合ったウイファルシの手にボールが当たったシーンが映り、「やはりPKだった」と確認できた。しかしスイスサポーターは、レフェリーのロゼッティにプレッシャーをかけることをしなかった。
 スイスはロスタイムにもデルディヨクの仕掛けから、またしてもウイファルシがハンドかどうか微妙なプレーをした。さすがにこのときはスイスサポーターもブーイングをレフェリーに浴びせたが、時すでに遅し。ホームの利をスイスは生かすことができなかった。

 ある意味、スイスサポーターの態度は素晴らしく、まるで“PTA(日本の父母教師会)推奨サポーター”と名付けたくなるほど。チェコ戦後、あるカメラマンは言う。
「ピッチの上で写真を撮っていても、スイスのサポーターからは“殺気”を感じなかった。上品? まさにそんな感じ」
 これからスイスと戦うトルコやポルトガルは、大応援団が駆けつけることが予想される。地元を敵地にしないよう、スイス国民には今、選手を支える魂が必要だ。ドイツのW杯、フランス戦での彼らにはそれがあった。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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