融合なった北陸の雄=宇都宮徹壱のJFL定点観測
1点差にまで詰め寄った武蔵野だったが……
攻守で大活躍した、富山の頼れるセンターバック金明輝。PKのやり直しという見せ場も作った 【宇都宮徹壱】
スタンドから声援を送る富山のサポーターは、ざっと見たところ30名弱。JFLレベルのアウエーサポーターとしては、それなりの人数である。今季の開幕戦(ホーム)では、いきなりの1万人を突破。その後もホームの1試合平均4594人の観客を集めるだけあって、地元ではかなり盛り上がっているようだ。この勢いに背中を押されて、序盤から富山がペースを握る。
富山のキーマンは、すぐに確認することができた。攻撃では10番を付けたMF上園和明。パッサーとして攻撃を組み立てながら、自らも果敢にシュートを放ち、セットプレーでのキッカーの役割も担う。守備で目を引いたのは、センターバックの4番、金明輝。的確な読みと巧みな体の入れ方、そして泥臭いハードワークで、何度もピンチを未然に防ぐ。個々のタレントでは、明らかに富山が上であった。
先制したのも富山。前半27分、上園の右コーナーキックを金が頭で合わせてネットを揺らす。手堅い守備力が持ち味の武蔵野は、3試合連続で失点スタートとなってしまった。それでも今日の武蔵野が、決して悪かったわけではない。後方からしっかりビルドアップして、相手陣内からワイドに展開する仕掛けは、それなりに迫力が感じられた。しかし、そこから先のアイデアと技術が足りない。前半は富山の1点リードのまま終了する。
後半、ようやく武蔵野が厚みのある攻撃を見せる。が、11分にカウンターを食らい、長谷川満の左足で追加点を決められてしまう。「あそこで入れられていなければ、後半は何とか行けたと思うんですが」とは、武蔵野の依田博樹監督。この2点目が、両者の明暗を分けるターニングポイントとなった。
それでもめげない武蔵野は、後半25分に左コーナーキックから高橋周大が頭で決めて1点差に詰め寄る。さらにその4分後、この日何度も縦方向に鋭いドリブルを見せていたFW岡正道が、ペナルティーエリアに侵入したところで倒されてPKをゲット。武蔵野陸上競技場のスタンドは一気にヒートアップする。
PKのキッカーを任されたのは、背番号7の太田康介。ここで決めれば、3連敗は阻止できるかもしれない――。左に放たれた太田のシュートは、残念、富山の守護神・中川雄二のセービングで止められてしまう。だが主審は、再びペナルティースポットを指し示した。あとで分かったことだが、キックの直前に富山の金がエリア内に侵入していたらしい。命拾いをした太田は、再び左方向にキックするが、弾道はポストの外側にそれてしまった。
「あれは仕方なかったですね。このところ、ずっと太田が決めてくれていたんで、思い切り託していたんですけど……」(依田監督)
その後、富山のプレスが弱まったこともあって、武蔵野が面白いようにサイドチェンジやクロスを決めてチャンスを作る。両サイドにボールを集めて数的優位を作るという、武蔵野が得意とする攻撃の形は確かにできていた。しかし、最後までゴールが遠かったのも、これまた武蔵野らしい。そのままスコアは動かず、アウエーの富山が勝利した。
「融合」は過去のものとなった?
富山の楚輪博監督。今後の上位陣との対戦について「とっても楽しみ」と余裕の表情を見せる 【宇都宮徹壱】
富山の指揮官・楚輪(そわ)博は、安堵感いっぱいの表情で囲み取材に応じていた。この人に会うのは、YKK時代の天皇杯(06年大会、4回戦での大宮アルディージャ戦)以来である。そういえば、あの時も楚輪はモリーニョばりにコーチングボックスでオーバーアクションを繰り返し、そしてGK中川はスーパーセーブを連発していたっけ。
それにしてもこの日のカターレ富山は、チームとして非常にまとまっている印象を受けた。指揮官はチームの「融合」について、どうとらえているのだろう。私の質問に対する楚輪の答えは明快であった。
「ぜんぜん気にしないですね、それは。前の所属チームが、どこだったかという話だけですから。アローズだろうが、YKKだろうが、もう前のチームですよ。ここまで4カ月、5カ月やってきて、ひとつのチームとしてまとまってきたかなっていう感じですね」
チームの融合については、もはや懸念材料ではない。ここまで4敗して中位に甘んじているものの、楚輪自身は試合を重ねるごとに手応えを感じている様子である。
「カターレ富山」という耳慣れないクラブは、もしかしたら今年の晩秋には「北陸第2のJクラブ」として脚光を浴びているかもしれない。と同時に、アローズとYKKという、天皇杯出場を競い合った企業クラブの記憶は、人々の脳裏から遠ざかっていくことだろう。にわかJFLファンとしては、いささか寂しい気分であるが、今後の富山の躍進には陰ながら注目することにしたい。
上位陣の順位は変わらず。高崎が今季初勝利
Honda FC 4−0 MIOびわこ草津
横河武蔵野FC 1−2 カターレ富山
栃木SC 2−1 SAGAWA SHIGA FC
ジェフリザーブズ 2−3 ニューウェーブ北九州
流通経済大学 2−1 ファジアーノ岡山
ソニー仙台FC 1−2 アルテ高崎
佐川印刷SC 2−0 FC琉球
TDK SC 1−1 FC刈谷
ガイナーレ鳥取 2−1 三菱水島FC
一番のトピックスは、アルテ高崎の今季初勝利だろう。ちなみに前回の勝利は、昨シーズンの開幕戦までさかのぼる。Honda、栃木の上位陣は安泰。リーグ序盤は好調を維持していた岡山が、ここに来て失速気味なのがいささか気になる。武蔵野も連敗から何とか脱してほしいところだ。
続いて、上位5位までの順位は以下の通り(勝ち点/得失点差)。
1.Honda FC(33/+18)
2.栃木SC(32/+16)
3.横河武蔵野FC(29/+8)
4.ファジアーノ岡山(27/+9)
5.MIOびわこ草津(24/+1)
なお次回は――まだ取材カードを決めていません。W杯3次予選が無事終わったら、ゆっくり考えたいと思います。
<この項、了>