融合なった北陸の雄=宇都宮徹壱のJFL定点観測

宇都宮徹壱

武蔵野、ついに首位から陥落

コーナーキックからゴールを狙う武蔵野(青)の選手たち。3連敗だけは何とか避けたいところ 【宇都宮徹壱】

 6月1日、日曜日。いつものようにJR三鷹駅からバスに揺られて武蔵野陸上競技場に向かう。だが、この日の私はいつものJFLモードではない。実は、横河武蔵野のホームゲームを取材後、横浜の日産スタジアムに移動して、オマーンとのワールドカップ(W杯)予選を控えた日本代表の前日練習を取材することになっていたのである。

 自分では、日本代表もJFLも同じくらいに興味深い取材対象だと思っているのだが、なにぶん不器用な人間ゆえ、なかなかに気持ちの切り替えが難しい。それでも、今月が「代表月間」になることは最初から分かりきっていたので(オマーン、タイへのアウエー2連戦も控えている)、何としてでも今節の武蔵野の試合は見ておきたかった。幸い、この日の天気は快晴。スタジアムに到着すると芝生席では、初夏の日差しの下、何人かの観客が日光浴をしているのが見えた。「すべてか、無か」という代表戦に比べて、何とほほえましい光景であろうか。

 さて、前節までのおさらいをしておこう。
 第11節まで無敗で首位をキープしていた武蔵野であったが、続く第12節でMIOびわこ草津に0−1で今季初の敗戦を喫してしまう。続くHonda FCとのアウエー戦にも0−1で競り負け、ついに3位に転落。第13節までの上位陣は、1位Honda、2位栃木SC、3位武蔵野、4位ファジアーノ岡山、5位びわことなっている。

「守備は堅いが、ここぞという場面で得点がない」。今季の武蔵野の戦いを一言で表すと、こうなるだろう。ここまで失点が一ケタの「9」というのは、もちろんリーグ最小。ただし得点「18」は、下から数えて8番目(全18チーム)である。2点差で勝利した試合は2度だけあるが、あとは1点差か同点で、ここまで地道に勝ち点を積み重ねてきた。今季のJFLは、スーパーなチームは存在しない。だからこそ、地味ながらも確固たるチーム戦術が浸透していた武蔵野が、リーグ戦の3分の1の時点で首位をキープすることができた。

 だが、ここに来て「元祖・門番」とでもいうべきHondaが浮上してきたことで、ようやく順位表にもチーム力の濃淡が反映されるようになった。とはいえ、武蔵野としてもホームでの3連敗は何としても阻止したいところ。この日の相手は、現在9位のカターレ富山である。

企業チームの合併で生まれたカターレ富山

武蔵野陸上に集結した富山のサポーター。サツバツ度皆無の、なかなか気持ちのよい応援でした 【宇都宮徹壱】

 カターレ富山は、今年1月に設立されたばかりのチームで、Jリーグを目指す県民サッカークラブだ。その前身は、ともにJFLの強豪であった、アローズ北陸とYKK APに行き当たる。

 アローズもYKKも、富山が生んだ伝説的な企業チームであった。
 アローズは1990年に北陸電力サッカー部としてスタートし、10年後の2000年にJFLに昇格。一方のYKKは、1962年に創部。北信越リーグ初年度の75年のシーズンから参戦して見事優勝するも、当時は全国地域リーグ決勝大会はなかったので、2000年までの四半世紀、ずっと北信越リーグに居座り続けた(その間、アルビレックス新潟がJリーグ入りを果たしている)。01年より晴れてJFLに昇格すると、同郷のライバル・アローズとの「富山ダービー」で盛り上がる。とりわけ、天皇杯での県代表を巡る対戦はし烈を極め、富山の代表といえばアローズかYKK。過去12大会では、前者が7回、後者が5回、それぞれ全国へのチケットを手にしている。

 決して「サッカーが盛ん」とは言い難い富山の地において、アローズとYKKは、いずれもJFLという全国リーグにおいて中堅以上の地位を保ってきた。05年はアローズが3位、YKKが2位となり、以後も両者共に一ケタの順位をキープし続けていた。こうなると「2つまとめて最強チームを作って、Jに打って出よう」という発想が生まれるのは必定。いずれも企業チームゆえに、水面下での紆余曲折(うよきょくせつ)があったことは容易に想像できるが、昨年に富山県サッカー協会の主導により、両者は合併を発表。ここにカターレ富山が誕生する。

 私自身、アローズもYKKも天皇杯では観戦しているのだが、「カターレ富山」となってからは全くの初見。それだけに、どんなチームなのか楽しみであったのだが、第一印象は「アローズ+YKK連合軍」にほかならなかった。ユニホームの胸ロゴは「YKK AP」で、背中は「北陸電力」(練習着はその逆)。スタメン表を見ると、選手の前所属はYKKが6名、アローズが5名となっていた。
 今季のカターレ富山のキャッチフレーズは「融合、そして躍進! CHALLENGE“J”」なのだそうだ。すでにJリーグ準加盟の資格は得ている。が、JFLの強豪を合併させて、すぐに強いチームが生まれるほどサッカーは単純なものではない。いみじくも、彼らの現時点での順位が、それを示していると言えよう。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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