バレー全日本男子、代表候補14人を発表 16年ぶりの五輪を目指して

田中夕子

4大会ぶりの五輪出場を目指して、植田ジャパンの戦いが始まる 【坂本清】

 1992年のバルセロナ大会以後、男子バレーボール日本代表チームは五輪出場を果たしていない。4大会、実に16年ぶりの五輪出場を懸け、植田辰哉監督率いる「植田ジャパン」は31日に開幕する北京五輪バレーボール世界最終予選兼アジア大陸予選大会に挑む。

■前代未聞の“代表”発表

 大会まで1週間を切った26日に行われた記者会見。当然、その場で出場12人が発表されるものと予想されていたが、発表されたのは14人。これは前代未聞のことであり、選手たちも「今日で(12人が)決まると思っていた」「(14人で出席することは)今朝になってから聞いた」と戸惑いを隠さない。
 なぜ、いまだ12人に絞りきらないのか。植田監督は、「ここにいる14人だけでなく、代表合宿に召集した選手は全員『北京に行きたい』と思っている選手ばかり。全員で戦うために、ギリギリまで14人でと協会にお願いした」と説く。だが、それほどまでに指揮官を悩ませたのには、いくつかの理由がある。
 まず1つは、V・プレミアリーグを終えてから合流した際の、選手たちの状況が思いのほか悪かったということだ。昨秋のワールドカップから約半年にわたり、休む間もなく試合が続き、ほとんどの選手がベストとは程遠い状況にあった。植田監督も「チームの形を作り始めたのは10日〜2週間ほど前から」と言うように、12人を見極め切れるような状態ではなかったという事情がある。
 そしてもう1つは、男子が五輪に出場するための厳しい条件だ。8チーム中4チームが北京行きの切符を手にできる女子大会と違い、男子は8チーム中最上位チーム+アジア最上位チームの計2チームしか出場権を獲得することができない。前回大会の経験者であるリベロの津曲勝利(サントリー)が「最終予選はたった7試合。しかもすべて力が拮抗したチームばかり。そのなかで1つずつ、確実に勝ち星を重ねなければならない」と言うように、女子大会以上に1勝、1セット、1点をめぐる激しい攻防が繰り広げられる。そこで、確かな結果を残せる選手を選出しなければならない。
 そんな背景もあっての「ギリギリまで14人で」という苦渋の選択。出場選手のエントリー締め切りは開幕前々日の29日。それまでは、チーム内競争が続く。

アテネ組の山本ら 大学生コンビの清水&福澤も選出

W杯代表落ちの経験を糧に、課題克服に力を注いできた福澤 【坂本清】

 では14人の顔ぶれを見てみよう。
 キャプテンの荻野正二、越川優、山村宏太、津曲(ともにサントリー)、石島雄介、朝長孝介(ともに堺)ら、これまでの植田ジャパンを築き上げてきた面々に代わりはない。ワールドカップにも出場した松本慶彦(NEC)、富松崇彰(東レ)も健在だ。さらに、4年前の最終予選にも主軸として経験した山本隆弘、宇佐美大輔(ともにパナソニック)も、「初戦から思いを爆発させて、一気に流れをつかみたい」(宇佐美)と言うように、前回大会で届かなかった分も、北京五輪出場に懸ける思いは強い。
 復活組は斎藤信治、柴田恭平(ともに東レ)。北京五輪を最後に現役引退を表明している斎藤は「(最終予選は)三度目。何とか出場権を取って、いい形で終わりたい」と今大会への決意を語る。スペインリーグに挑戦中の柴田も、今シーズンは同リーグでレシーブ賞を獲得するなど、かつては課題とされた守備を克服したことを形で示しており、期待も高まる。
 新戦力として期待が高まるのは、清水邦広(東海大学)と福澤達哉(中央大学)の現役大学生コンビだ。昨秋のワールドカップも経験した清水に対し、選出されれば2005年ワールドリーグ以来となる福澤は身長189cmと小柄だが、スパイクジャンプの最高到達点は355cmで柴田と並んでチームトップ。「スピードと高さには自信がある」と言い切り、ワールドカップ直前にメンバーから漏れた悔しさを糧に、「速いトスを打つことが自分の生きる道だと思っている」と合宿開始直後から“スピード”を追及し続けた。パナソニックを優勝に導いたフォンテレス・ルイス・フェリッペを参考に、セッターの宇佐美と繰り返しコンビを合わせ、映像を見ながら試行錯誤を重ねた。課題とされたサーブカットも、一昨日まで6日間行われた米国チームとの練習試合を通して「世界の速さ、重さを体験できた」と不安は感じさせない。
「清水や僕はロンドンオリンピックでは中心になる選手だと思っています。そのためにも、北京の出場権を取ってオリンピックを経験したいし、男子バレーの人気を復活させたい」
 力強い言葉も、つかみつつある自信の表れなのだろう。

最初で最大の関門・イタリア戦

代表候補14人を発表した植田監督。最終メンバー発表は、異例の開幕直前に 【坂本清】

 植田監督以下、多くの選手が「最初であり、最大の関門」ととらえるのが開幕初日のイタリア戦だ。昨夏のワールドリーグでは2勝した相手ではあるが、セッターにベテランを戻すなど、メンバーも大幅に変わった。だが、植田監督は「相手の弱いところを攻めるサーブ、ブロックを徹底すれば勝てない相手ではない」と豪語する。
 世界ランク12位の日本に対し、イタリアは10位。格上の相手を初戦でたたくことが、短期決戦を制する勢いと力を生み出すことにもつながる。4大会ぶりの五輪出場の行方を左右すると言っても過言ではない一戦になりそうだ。

 日本男子にとって「前回の五輪」であるバルセロナを知る38歳の荻野を筆頭に、当時は5歳で「日本の男子バレーが、五輪に出場していた記憶がない」という大学生の清水、福澤を含む14人の戦う集団が、12人に絞られたとき、真の戦いが始まる。4大会ぶりとなるのか、それとも4大会連続となるのか。すべての答えは、5日後からの戦いのなかにあるはずだ。

北京五輪世界最終予選兼アジア大陸予選

■男子代表メンバー
1.齋藤信治(東レ)
4.柴田恭平(東レ)
5.宇佐美大輔(パナソニック)
7.山本隆弘(パナソニック)
8.荻野正二(サントリー)※主将
9.富松崇彰(東レ)
11.松本慶彦(NEC)
12.山村宏太(サントリー)
13.清水邦広(東海大)
14.福澤達哉(中央大)
15.津曲勝利(サントリー)
16.石島雄介(堺)
17.越川優(サントリー)
18.朝長孝介(堺)

■全日本男子試合日程
5月31日(土)イタリア戦
6月1日(日)イラン戦
6月3日(火)韓国戦
6月4日(水)タイ戦
6月6日(金)オーストラリア戦
6月7日(土)アルゼンチン戦
6月8日(日)アルジェリア戦
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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