そして、2位に浮上 市之瀬敦の「ポルトガルサッカーの光と影」

市之瀬敦

勝てたに違いないセルビア戦

セルビア戦は1−1の引き分け。アウエーということを考えれば、悪い結果ではない 【Photo:ロイター/AFLO】

 そして、場所を移してのセルビア戦。練習中に負傷し、出場が危ぶまれたC・ロナウドは先発メンバーに名を連ねたが、意外なことにクアレズマに代わり、シマゥンが先発した。もちろん、シマゥンもベンフィカで好調ではあるのだが、セルビア代表のクレメンテ監督にとっても、この起用は驚きだったようである。
 熱い応援を繰り広げるセルビアサポーターたちだが、開始わずか5分、ティアゴのシュートで静まり返らざるを得なかった。エリア外からのファンタスティックなゴール!
 25歳になるティアゴはポルトガル代表では中堅的な存在で、好不調の波が少なく、コンスタントに能力を発揮できるユーティリティー性の高い選手。目立った活躍は確かになかったものの、セルビア戦が35試合目の代表キャップであった。したがって、すでに5点か6点、代表でもゴールを決めていたとばかり思っていたのだが、なんとこの日のシュートが代表初ゴールであった。

 しかし、いつまでも黙っているセルビアではない。まもなくして反撃を開始。そして、37分、コーナーキックからヤンコビッチがヘディングを決め、同点とした。ポルトガルが最も警戒していたセットプレーからの失点は、悔いが残るものであった。
 後半もポルトガルには何度もチャンスが訪れ、PKと思われるプレーも見られたが、セルビアのGKストイコビッチの好セーブもあり、追加点はならなかった。クアレズマ投入が残り8分の時点というのは、やや消極的という気もするが、アウエーのゲームは引き分けでよしとするスコラーリ監督としては、合理的なさい配となるのだろう。

 この試合の結果を受け、ポルトガル代表は首位ポーランド(1試合多く消化)とは勝ち点5差で、2位に浮上。まだ磐石とは言えないが、予選突破に向けて視界が大きく開けてきた。アウエーゲームでの取りこぼしが多過ぎるのではないかという批判も聞こえてくるのだが、W杯の余韻をまだ引きずっていたであろう予選序盤のもたつきからも抜け出し、今後に関しては大きな心配はいらないように思える。
 なお、ベルギー戦とセルビア戦を手術という理由で欠場したデコに関し、スコラーリ監督はその理由に納得せず、今後は代表に呼ばないのではないかという憶測が一部メディアで流された。だがセルビア戦の翌日、同監督はデコに対する信頼は揺らいでいないという旨の発言をしている。6月のベルギー戦ではC・ロナウドは累積警告のために出場できないが、デコの活躍に期待することができるだろう。

“クラシコ”は引き分ける

 最後に国内リーグにも目を向けておこう。
 重要な国際試合後の4月1日、ルース・スタジアムでベンフィカ対FCポルトの“クラシコ”(伝統の一戦)が行われた。この試合に勝てばポルトを抜いて首位に立てるとあって、ベンフィカサポーターたちの期待は膨れ上がっていた。
 けれども、結果は1−1の引き分け。前半はポルトが押し気味に試合を進め、41分にペペのゴールが決まり1−0で終了。後半はカツラニスに代わって投入された“マエストロ”ことルイ・コスタが試合の流れを変え、82分にポルトのオウンゴールで同点に追いついた。試合内容をそのまま反映した結果に終わったゲームといえるのかもしれない。

 残念ながら、“クラシコ”特有の興奮状態の中で、ポルトサポーターが数名、爆竹や座席をベンフィカ応援席に投げ込み、警察に拘束されるという事態も見られたが、試合全体の雰囲気は“クラシコ”の名にふさわしいものであった。
 ピッチ上とスタンドの両方にみなぎった緊張感と高揚感。こうした試合がもっと増えれば、サポーター離れが嘆かれて久しいポルトガルリーグも再び活気を取り戻すことができるのではないか。選手や監督には、いっそうの奮起を望みたいところである。

 さて、“クラシコ”を終えて、首位ポルトと2位ベンフィカの勝ち点差は1のまま。一方で、ホームでベイラ・マルを下した3位のスポルティング・リスボンは漁夫の利を得るかのように、首位ポルトとの勝ち点差を4とし、再浮上してきた。
 残り7節。リーグはいよいよ大詰めを迎える。ポルトが最も困難なベンフィカとのアウエーゲームを引き分けで乗り切ったという事実は確かに重い。さらに忘れてはならないのは、直接対決でポルトはベンフィカに1勝1分けで、当該成績でも優位に立っているという事実である。
 しかし、リエジソンが再びゴールを決め始め、復調の兆しが出てきたスポルティングを含め、ポルトガルサッカーの“トレス・グランデス”(ビッグ・スリー)によるタイトル争いはまだ予断を許さない。また、ベンフィカにとってはUEFAカップでの快進撃が、リーグでの戦いにおいて吉と出るのか凶と出るのか。
 ポルト有利は間違いないけれど、結論を出すのはもう少し後にした方がよさそうである。

<この項、了>

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著者プロフィール

1961年、埼玉県生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科教授。『ダイヤモンド・サッカー』によって洗礼を受けた後、留学先で出会った、美しいけれど、どこか悲しいポルトガル・サッカーの虜となる。好きなチームはベンフィカ・リスボン、リバプール、浦和レッズなど。なぜか赤いユニホームを着るクラブが多い。サッカー関連の代表著書に『ポルトガル・サッカー物語』(社会評論社)。『砂糖をまぶしたパス ポルトガル語のフットボール』。『ポルトガル語のしくみ』(同)。近著に『ポルトガル 革命のコントラスト カーネーションとサラザール』(ぎょうせい)

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