ユース“代表”強化 そして北京五輪へ 中田徹の「オランダ通信」

中田徹

北京五輪出場&U−21欧州選手権連覇

U−21オランダ代表は北京五輪出場を決め、U−21欧州選手権連覇も達成した 【 (C)Getty Images/AFLO】

 6月10日に開幕したU−21欧州選手権は1年前のポルトガル大会同様、オランダではほぼ全試合が生中継。試合の日はもちろん、試合のない日も連日1時間10分の特番が組まれた。
 U−21オランダ代表はグループリーグ1戦目のイスラエル戦(1−0)、2戦目のポルトガル戦(2−1)と連勝。あっさりと北京五輪出場を決めた。その瞬間、バベル(アヤックス)はピッチの芝生に顔をうずめてキスをし、マドゥロ(アヤックス)は「北京! 北京!」と狂喜乱舞した。ドレンテはデ・ハーン監督の胸を目掛けて走り出していた。オランダサッカー代表はかつて五輪の常連だったが、それも1952年のヘルシンキ大会まで。1954年にオランダリーグがプロ化されてからは出場機会がなく、実に56年ぶりの出場となった。

 スタンドでポルトガル戦を観戦したNOC*NSF(オランダ五輪委員会とオランダスポーツ連盟によるスポーツ統括機関)のテルプストラ会長は「私のチームにイレブンが加わる」と喜んだ。同委員会のファン・コメンネーTD(テクニカル・ディレクター)は「素晴らしい。オランダでサッカーは最も重要なスポーツ。これで五輪競技団は完全なものになる」と語った。
 U−21オランダ代表は、オランダ競技団として北京行きの第1号となった。これが起爆剤となったか、すぐにソフトボール女子代表が涙の北京行きを決め、サッカーに続いた。

 しかしまだU−21欧州選手権は続く。オランダにとって次なる目標は、2年連続の優勝だ。準決勝のイングランド戦は平日の夕方キックオフとあって9割ほどの入りだったが、グループリーグ3戦と決勝戦は満員になった。町の中はファンゾーンも作られ、カフェはオレンジ色の服で着飾ったサポーターでいっぱいになった。ユース代表不毛の地・オランダ――しかしこれも2005年ワールドユースとU−21欧州選手権の盛り上がりで、完全に過去のものとなったのである。
 中でもハイライトは準決勝のイングランド戦。オランダの試合内容は悪かった。それでもチームのファイティングスピリッツと団結心は、試合内容をカモフラージュした。89分、リフテルスのオーバーヘッドで奇跡的に1−1とすると、PK戦は16巡の熱闘の末に勝利。「PK戦に弱い」と揶揄(やゆ)されがちなオランダだが、練習の成果を大一番で見せつけた。

 決勝ではセルビアを4−1と下し、オランダは見事に2年連続の優勝を果たした。オランダはこの大会の運営成功を実績として、今度は2018年のW杯でベルギーとの共同開催を狙う。UEFAのプラティニ会長は「共同開催は難しいだろう」と否定的だが、KNVBはそれでもなおバルケンエンデ首相から政府の協力を取り付けようとロビー活動を始める。

デ・ハーンの“孫たち”が2010年南アフリカへ

「ポルトガル戦のPKの判定(オランダはリフテルスが倒されPKを得たが、ポルトガルはモウティーニョが倒されてもPKを奪えなかった)はホームアドバンテージがあったと思うが、優勝したことに関してホームアドバンテージはなかったと思う」
 とデ・ハーン監督は大会を振り返った。
 2005年のワールドユースで最後はプレッシャーに負け、力を出し尽くせなかったチームは、今回はプレッシャーに勝って期待に応えたことに胸を張った。だが、デ・ハーン監督のマネジメントを見ていると、ホームアドバンテージはあったと思う。

 大会期間中、U−21オランダ代表は地元開催だからこそできる環境作りをした。監督自身が主宰する『フォッペ・ファウンデーション』を通じたハンディキャップをもった人向けの慰安活動、子供たちへのサイン会、選手が彼女たちと過ごすリラックスタイム、ヘーレンフェーンのスタジアムの隣にある大スポーツホールでの体操競技の訓練、国民的超人気ラッパーの練習参加、他競技のアスリートたちとの交歓……などなど。施設の使い方も、ファンとの触れ合い方も、ホームならでは。合宿中、64歳のデ・ハーン監督は積極的に18〜23歳の孫のような選手たちと積極的にコミュニケーションを取り、強いきずなを築いた。
 優勝から一晩がたった24日、デ・ハーン監督の地元ヘーレンフェーンで大優勝祝賀会が多くのファンを集めて開かれた。そのとき一番の歓声を浴びたのは大会でブレークしたドレンテ(フェイエノールト)でもなく、決勝戦で活躍したバベルでもなく、大会得点王のリフテルス(NAC)でもなく、デ・ハーン監督だった。

 オランダの2大全国紙『デ・テレフラーフ』と『アルヘメーン・ダッハブラット』はそれぞれ別に「デ・ハーンはファン・バステン監督の後、オランダA代表の監督になるべきか」という質問を読者にし、共に75%の読者が「はい」と答えている。
 今大会活躍したGKワーターマン(AZ)、DFザウファーローン(ヘーレンフェーン)、フラール(フェイエノールト)、ドンク(AZ)、ピータース(ユトレヒト)、MFマドゥロ(アヤックス)、FWレフテルス(NAC)、バベル(アヤックス)、デ・リッダー(セルタ)、前大会活躍したDFティーンダリ(フェイエノールト)、エマヌエルソン(アヤックス)、MFアイサッティー(トゥエンテ→PSV)、スハールス(AZ)、デ・ゼーウ(AZ)、ホフス(フェイエノールト)、FWフンテラール(アヤックス)ら、豊富なデ・ハーンの教え子的な“孫たち”が順調に成長を重ねれば、このメンバーを軸に2010年南アフリカ大会のW杯で、また一体感のあるチームを見られるかもしれない。

<了>

※編集部注※
本コラムにおける「U−21」の表記は、厳密には21歳以下ではありません。今大会のU−21欧州選手権の予選が始まりチームが作られた2006年が「U−21」であり、欧州ではその表記が本大会まで引き継がれるためです。実際には1984年1月1日生まれ以降の選手に参加資格が与えられています。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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