ミラノでのドロー、そしてパリでの敗北 フランス代表、3位へ転落

横尾愛

パリに出現した“タータン・アーミー”

キルトに身を包んだ気合充分のスコットランド・サポーター 【Photo by Kana Yokoo】

 イタリア戦から3日後、パリに現れたのは、大量のスコットランド・サポーターたちである。老いも若きもキルト(スコットランドの民族衣装)に身を包み、パリのあらゆる観光地に出没した彼らは、ちょっとしたセンセーションを巻き起こした。フランスで開催中のラグビーW杯が白熱する中、1万人近い“タータン・アーミー”(スコットランド代表サポーターの愛称)の出現は、人々に「まだフットボールもあったっけ」と思い出させたのだ。

 スコットランド代表キャプテンのバリー・ファーガソンは、『レキップ』紙で「フランスは僕らを無視している」と批判していたが、実際そうとがめられても仕方のない部分がフランスにもあった。パルク・デ・プランスで水曜日に行われたフランス対スコットランド戦は、前日に4000近くの空席があると発表されたのだ。
 だが奇妙なことに、この試合のテレビ視聴率は41.8%と大変良かった。放送局TF1によれば、このユーロ予選に関しては、2006年9月6日に次ぐ高記録だったという。ちなみにこれは、W杯決勝直後のイタリア戦だ。

 このギャップは何なのだろう。バカンス直後の9月初頭とあって、フランス人はあまり外出したがらなかったのかもしれない。ともかくパルク・デ・プランスで、キックオフ5分前になっても完全に埋まらない寂しいバックスタンドを見たときには、最近街でフットボール代表のユニホームを着てラグビーボールを蹴っている少年を見たときのような、何とも言えない違和感を覚えたものである。

一瞬のすきを突かれて失点

 この日、それほど高い位置までは迫ってこないスコットランドに対して、リベリーやマルーダのドリブル勝負は有効だった。だが、ウィア、マクマナスの両センターバックは非常に強固で、フィニッシュを容易に許さない。7カ月ぶりに代表戦の公式戦に先発したトレゼゲがトラップミスをしている間に、両サイドバックも戻ってきてしまう。フランスで、このようにずらっと一列に並んで守りを固めるやり方を指して「万里の長城」と言っているのを聞いたことがあるが、スコットランドはまさしく頑強な万里の長城だった。
 ボールは持たせてくれる、サイドにも入らせてくれる。だが最後の扉だけが開かない。どうやってこの要塞を崩すかは、攻撃陣にかかっている。プロキャリアをスタートしたパリ・サンジェルマン(PSG)のホーム、パルク・デ・プランスに戻ってきたアネルカは55分、細かいボールタッチでうまくリベリーを抜け出させることに成功。リベリーは左からフリーでゴールに迫ったが、GKゴードンに阻まれてしまう。続いて56分、ラサナ・ディアラがDFの股を抜いて右奥のリベリーにつなぐ。リベリーはマイナスに折り返し、アネルカが中央からこれまたフリーでシュートしたが、GKゴードンが再度立ちはだかった。

 2度にわたってフランスの攻撃を防いだことに大喜びのスコットランドサポーターたちが、立ち上がって踊り出す。そちらに気をとられているすきに、GKゴードンが長いフィードでリスタート。ボールはビエイラとマケレレの後ろにいたFWマクファデンの足元にぴたりと吸い付いた。マクファデンは迷わず前を向き、30メートルの豪快なシュートを放つ。やや前に出ていたGKランドローは必死で飛びつくが、手をかすめたボールは弾んでゴールネットを揺らした。一瞬のすきを突いて、スコットランドが値千金の決勝点。普段はアウエー・サポーターが入れない部分にもみっちりと座っている紺色のサポーターたちが、「スコットランド! スコットランド!」と声を張り上げる。単なる万里の長城ならば、引き分けで終わるだけだ。だがスコットランドは、動く万里の長城だった。

3位転落にも落ち着きを見せる選手たち

 ドメネク監督が後半に次々と投入したナスリ、ベンゼマといった切り札も、さらに用心深くなったスコットランドを崩すことはできない。アネルカとトレゼゲがかみ合わなかったこと、そしてビエイラがイタリア戦と打って変わって不調で、ほとんどボールをキープできなかったことで、フランスの中盤はぎくしゃくしたままで試合を終えることになってしまった。同日、イタリアがウクライナに勝利したため、フランスは一気にグループ3位に転落。残り3試合、すべてに勝つことがあらためて現実的な目標となったのである。
 イタリアでうまく守り切った後だけに、選手たちはさぞかしがっかりしているだろうと思ったが、取材陣でごった返すミックスゾーンで、彼らは意外に落ち着いていた。

「大事な試合に負けてしまった。つらいけど、スコットランドが得点するかもしれないってことも分かっていたよ。実際、そうなってしまったね」(GKランドロー)
「みんながっかりしているけど、ロッカールームの雰囲気はいいよ」(アネルカ)
「ただ、信じられないゴールだったよ」(マルーダ)

 チームに危機感が生まれるとすれば、10月に行われるフェロー諸島戦からなのだろうか。このリラックスぶりにあらためて少しばかりの違和感を覚えながら、パルク・デ・プランスを後にすると、いつもはPSGサポーターが占領しているバーにいるのは、大量のキルト軍団。スタジアムからかなり離れた場所で、まだ歩いているスコットランド人もいた。「彼ら、粘り強いよね。ここまで彼らが歩いてきたとしても、驚かないね」と、これまたのんびりと、タクシーの運転手さんは言うのであった。

<この項、了>

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著者プロフィール

1976年生まれ。大阪府出身。大阪外国語大学フランス語学科卒業。在学中にパリへ留学、そこで98年フランス代表の優勝を目の当たりにする。帰国後1年半のメーカー勤務を経て、現在東京のTV番組制作会社でサッカードキュメンタリーなどの番組制作に携わる。「サッカーをよく知らなくても面白い、サッカーファンならなおさら面白い」ものを書くのが信条

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