若い世代を中心に「母国・豪州のためにひとつになる」

宮地陽子

自分たちの手で再び勝てるチームに

 オーストラリア出身のアンドリュー・ボガットの第一印象は、「強気」を通り越して「傲慢(ごうまん)」だった。

 ユタ大2年のときにネイスミス賞、ウッデン賞などNCAAの最優秀選手賞を総なめし、NBAにアーリーエントリーした。同じオーストラリア出身のセンターということもあり、ドラフト前はよくルーク・ロングリー(元シカゴ・ブルズ)と比較されていたのだが、それに対して「自分は彼(ロングリー)ほどノロくない。彼よりも運動能力があるし、シュートも上手い。競争心も強い。比較の対象にもならないと思う」と言い放ったのだ。
 ロングリーは1990年代後半のブルズ後期三連覇の先発センターだ。客観的に見ればボガットの評価はまったくの的外れというわけではなかったが、それでもオーストラリアのバスケットボール史上で最も実績を残した先輩選手に対して、NBAで結果を出す前の新人がここまで見下したことを言うのかと驚いたものだ。
 それから1年ほどして、ボガットに直接取材する機会があったが、当初の尖った印象はまったく消えていた。ひとつひとつの質問に丁寧に答え、むしろ辛抱強く、温厚だった。

「(ドラフト当時の)メディアでの自分の言動は間違いだった」とボガットは反省する。「今はあのころよりも、自分も落ち着いてきたと思う。人生をありのままに受け止めることができるようになった」
 現在、ボガットが所属しているミルウォーキー・バックスは、90年代以降はプレーイオフ1回戦を勝ち抜いたことはわずか1回だけという弱小チームだ。ボガットが入った最初のシーズンはプレーオフこそ出られたものの1回戦で敗退。昨季はプレーオフを逃し、今シーズンも奇跡が起こらない限りプレーオフには出られないだろう。

 かつての尖ったままのボガットならトレード要求でもしそうなところだが、今は違う。「このチームで続けたい。このチームを勝てるチームにしたい」と語る。
「伝統あるこのチームを、自分たちの手で再び勝てるチームにしたい。人々がバックスのユニフォームを着ることを誇りに思うようなチームにしたいんだ」

国際大会で悲願のメダル獲得へ

 バックスの状況は、オーストラリア代表の現状とも少し似ている。
 オーストラリアは決してバスケットボール大国ではない。国内の人気スポーツはラグビー、オーストラリアン・フットボール、クリケットで、バスケットボールは国内プロリーグがあると言うものの、人気面ではそれらのスポーツに劣る。
 国際大会では88年ソウル五輪と96年アトランタ五輪で二度ベスト4入りして期待されたが、自国開催の2000年シドニー五輪でも4位に終わり、悲願のメダルを取りそびれた。しかも、その後にロングリー、アンドリュー・ゲイズ、シェーン・ヒールといった90年代を支えた選手たちが引退したことで後退。世代交代後の04年アテネ五輪では再び9位まで落ちている。

「世界の各国のレベルが上がっているだけに、あのころ(90年代)と同じ成績をあげること自体が簡単なことではない」とボガットは言う。「まだ大きな大会でメダルを取ったことがないから、今はそれが一番の目標だ」

 そんなボガットにとって、頼もしい後輩が現れた。ボガットと同じAIS(オーストラリア・スポーツ研究所)出身で、去年秋から米国のセントメアリーズ大に入ったポイントガードのパトリック・ミルズだ。今シーズン、一年生ながら先発に抜てきされ、セントメアリーズを25勝7敗の成績、そしてNCAAトーナメントに導いた。

 同じウェストコースト・カンファレンスのポートランド大に所属し、対戦したこともある伊藤大司も、ミルズの印象を「外からも打てるし、中にもドライブインができる。一歩目が滅茶苦茶早い。経験も豊富で、対戦した中ではトップクラスの選手」と評す。

 去年夏、19歳になったばかりのミルズは初めてオーストラリアの正式代表に選ばれた。オセアニアの五輪出場権をかけたニュージーランドとの対戦では、いきなり勝利に大きく貢献する活躍を見せている。先ごろ発表になった北京五輪の代表候補33人の中にも選ばれており、五輪での代表入りはほぼ確実と言われている。
 代表監督のブライアン・グールジャンも、「ポイントガードは大事なポジション。彼は単にメンバーの一人であるだけでなく、とても重要な一員だ」と、若きスターに期待する。
 ボガットは「これから数回の五輪はオーストラリアにとってはとても重要な時期だ」と言う。同じ世代の代表メンバーで経験を重ね、世界のトップレベルまで成長したアルゼンチンをお手本に、中心選手は固定メンバーで成長していきたいとも語っている。当然、23歳のボガットと19歳のミルズは、その中心となるべき選手たちなのである。

ボガットとミルズ、二人の志

 ところで、同じオーストラリア人とはいえ、二人の生い立ちはかなり違う。ボガットの家族はクロアチアからの移民一家。ボガット自身もAISに入るまではクロアチアに戻ってバスケットボールを続けることも考えたことがあると言う。一方のミルズは、父がトレス海峡諸島出身で母がアボリジニという、オーストラリアの先住民族出身。先住民族がオーストラリア代表に選ばれたのは、ミルズで3人目だ。

「先住民の中から成功した人はあまり多くないから、余計にバスケットボールで成功したいという気持ちになる」とミルズは言う。「子供たちに、機会を十分に生かすべきだと言うメッセージを伝えようとしているんだ」と。

 そのメッセージは、先住民族だけのものではない。ボガットやミルズがAISを出たあとに米国に渡ってバスケットボールを続けているのも、言ってみればすべて「機会を十分に生かすため」なのだ。
 生まれや出身は違うが、同じ国に育ち、同じスポーツに夢中になり、機会を求めて米国まで渡ったボガットとミルズ。この夏、彼らは母国オーストラリアのためにひとつになって戦う。

<了>
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著者プロフィール

東京都出身。国際基督教大学教養学部卒。出版社勤務後にアメリカに居を移し、バスケットボール・ライターとしての活動を始める。NBAや国際大会(2002年・2006年の世界選手権、1996年のオリンピックなど)を取材するほか、アメリカで活動する日本人選手の取材も続けている。『Number』『HOOP』『月刊バスケットボール』に連載を持ち、雑誌を中心に執筆活動中。著書に『The Man 〜 マイケル・ジョーダン・ストーリー完結編』(日本文化出版)、編書に田臥勇太著『Never Too Late 今からでも遅くない』(日本文化出版)がある。現在、ロサンゼルス近郊在住。

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