アビスパ福岡は変われるか=新たな決意で臨む2008年シーズン

中倉一志

問われるリトバルスキー監督の真価

 補強の成功で、戦力面ではリーグ戦を勝ち抜くための準備が整った。では、それをどう形にし、結果に結び付けるのか。リトバルスキー監督にはそれが求められている。

 ここまでを振り返ると、リトバルスキー監督は2つの点で大きく変わった。ひとつは戦術面。ボールをポゼッションして攻撃を仕掛けるサッカーへのこだわりを捨て、守備を重視し、シンプルに前線にボールを預けるサッカーへの転身を図っている。その理由を「去年はいいサッカーを目指したが結果が出なかった。大切なのは結果。理想とするサッカーに執着するのではなく、チームに合う方法を優先しなければいけない」と話す。

 もうひとつは指導方法の変化だ。選手が主導という考えを持つリトバルスキー監督は、昨シーズンは方向性を与えた後は選手の自主性に委ねることが多かった。しかし、細部に取り決めがないチームは統一感に欠けた。「いいサッカーはできている。あとはちょっとしたところだけ」。選手たちはそう繰り返したが、「ちょっとしたところ」は最後まで埋められなかった。今季はその反省から、微に入り細に入り、指導する姿が印象的だ。それに伴って、選手たちもまた積極的に質問を浴びせることが多くなっている。

 細かな指導で選手の理解が深まり、深まるからこそ新たな意見を選手が監督にぶつけ、それを受け止める監督がさらに方法論を提示していく。深いところまでコミュニケーションできなかった昨シーズンの反省から、互いに現在の状況を望んでいる監督と選手たち。そのコミュニケーションは理想的な形で進んでいるようだ。

 ただし、結果に結び付くかはこれから次第。シーズンを通していい関係を維持し、方法論を提示し続けられるかどうかが鍵になる。田部GMの全面的なバックアップで望み通りのチーム編成ができたからこそ、言い訳は許されない。リトバルスキー監督にとって、結果が求められるシーズンになる。

支援体制を整えられるか

 しかし、こうした準備と変化も、それを支える環境が伴わなければ、十分な効果を挙げることはできない。フロントと職員がどこまでチームの支援体制を整備できるかも、今シーズンの成功には欠かせないポイントだ。

 急務とされているのは資金面の確保だ。今シーズン、胸スポンサーからコカ・コーラウエストジャパンが、撤退することはすでに明らかになっているが、現在、まだ新しいスポンサー獲得のニュースは報じられていない。

 そして入場者数。昨シーズンの22万8702人は、仙台(35万2432人)、札幌(29万676人)に次ぐ3番目に当たるものだが、その実数は仙台、札幌に遠く及ばない。また、上位6チームとの対戦を見ると、ホームの観客が1万人を超えたのは4回しかなく、昇格争いに、県民、市民の機運を醸成できなかったことが分かる。

 こうした面でも田部GMの手腕に期待する声は大きい。就任してわずかな期間でチーム編成を成功させたばかりではなく、地元の強豪である福岡大学とのパイプを太めた。さらに若い選手の私生活を指導し、プロとしてのあり方を積極的に示している。その実行力には、多くのサポーターがクラブを変えてくれる可能性を感じている。また、オフィシャルブログを新設してチーム情報を開示しているが、それも今までの福岡にはなかった姿勢だ。

 リーグ戦は単にチームの力を競うものではない。フロント、クラブ職員、サポーター、メディア等々、クラブにかかわるすべての人たちの力を結集した総合力を競うもの。チームの変化と併せて、運営部門にも大きな変化を加えること。それがクラブが変わるということだ。そして、その先にJ1復帰のゴールがある。

<了>

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著者プロフィール

1957年生まれ。サッカーとの出会いは小学校6年生の時。偶然つけたTVで伝説の「三菱ダイヤモンドサッカー」を目にしたのがきっかけ。長髪をなびかせて左サイドを疾走するジョージ・ベストの姿を見た瞬間にサッカーの虜となる。大学卒業後は生命保険会社に勤務し典型的なワーカホリックとなったが、Jリーグの開幕が再び消し切れぬサッカーへの思いに火をつけ、1998年からスタジアムでの取材を開始した。現在は福岡に在住。アビスパ福岡を中心に、幼稚園、女子サッカー、天皇杯まで、ありとあらゆるカテゴリーのサッカーを見ることを信条にしている

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