日本のクラブが海外リーグで戦う意味とは=アルビレックス新潟シンガポール社長コラム 第1回
元英国領の背景による特殊性
SリーグもSingapore poolsのためだけではなく、「くじの売上を上げる=試合への興味を湧かせる」という流れを明確に意識している。そのため、例外を除いて月曜日から土曜日に毎節1試合というスケジュールが組み込まれ、接触頻度を上げている。週末に節が消化されることがほとんどである他国のリーグでは考えづらい発想だ。
これに関してはネガティブな側面もある。まずは、試合の間隔がイレギュラーになるため、選手たちのコンディション調整が非常に難しいこと。中2日、3日の試合が続いたかと思えば、10日ほど空いてしまうこともある。若さゆえにフィジカル面の適応能力がまだまだ高いとは言えないアルビ・Sの選手たちにとっては、大きな逆境である。
さらに、いわゆる八百長問題がこれまでも何度か起こってきた。昨季も、参加していた中国クラブ(大連実徳とは別)のクラブマネージャーと数人の選手が、この疑惑によって処分を受け、クラブ自体もリーグから外された。リーグ側も厳しい制裁措置で対応しているものの、イタチごっこが続いてしまっている印象だ。
ちなみに、シンガポールの地元の方々に一番人気のあるプロサッカーリーグは、イングランドのプレミアリーグである。前述したように以前英国領だったという背景やテレビ放映の影響か、街を歩けば5分に一度はマンチェスター・U、リバプール、アーセナルといった強豪クラブのユニホームやTシャツを着用している地元の方とすれ違う。プレミアリーグの試合当日の夕方には、当然のようにくじ屋の前での長蛇の列を目にする。地元紙も3:1くらいの割合でSリーグよりもプレミアリーグのニュースを優先しているのが実情だ。
模範的なクラブとして評価されるアルビ・S
また、海外から参加しているクラブの中で、われわれのチーム運営はSリーグから非常に重要視されている。いくつかの他のクラブで見られるように、大きなパトロンがポケットマネーでコントロールしているような組織ではなく、スポンサー収入や入場料収入を獲得するための活動を行い、運営しているわれわれのスタイルが、他クラブの模範として、高い評価につながっているのだ。
続いて、今季のチーム状況を説明したい。
ミスター名古屋と呼ばれたFW岡山哲也やGK高橋範夫といったJリーグを経験したベテラン勢に加え、飛躍的にプレーの質を高めているDF内田宝寿(現在負傷中)、ルーキーながらも昨季のチーム得点王となったFW高瀬証らが残り、Sリーグに旋風を巻き起こす体制が整ったと感じている。また、ヴィッセル神戸から加入した190センチのFW土井良太や、冬の高校選手権で2得点を挙げたルーテル学院高卒のFW秋吉泰佑といった新加入選手も活躍のチャンスをうかがっている。JAPANサッカーカレッジからの留学生も年々レベルが上がっている。総じて今季のアルビ・Sのプレイヤーは、1人1人のプレーの個性、というかアクが強い。ピッチではこれまで以上にエキサイティングなプレーをお見せすることができるだろう、と信じている。
4つの理念と3つの柱となる事業
未来ある子供達に「夢を与えられる人づくり」に貢献します。
地域の人々と共に「活気あふれるまちづくり」に貢献します。
地域と世界を結ぶ「豊なスポーツ文化の創造」に貢献します。
日本とシンガポールの「架け橋」となります。
上記3つがアルビレックス新潟のクラブ理念、そして最後の一つがアルビ・Sのオリジナルの理念である。現在われわれが柱として行っていることは、それぞれがアルビレックス新潟の理念と通じている以下の3つの事業だ。また、これらの理念に沿った運営を行っている結果、「次世代を作る」という副次的な要素も生まれてきている。
夢を与えられる人づくり=トップチーム→次世代の選手
活気あふれるまちづくり=少年サッカースクール→次世代の国際人間
豊なスポーツ文化の創造=CSR活動→次世代の国際交流
実際にわれわれが行っているCSR活動は、2006年度に日本シンガポール国交樹立40周年記念事業に認定された。授業時間を利用して、日本人学校だけでなく恵まれない子どもたちが通う小学校などに赴き、一緒にボールを蹴る。本年度からはこのようなボールを蹴る活動だけでなく、病院や老人ホームへの訪問など、地域住民に対して勇気を与える活動をより多く実施していきたいと考えている。
上記の活動にも含まれることだが、「シンガポールに日本のサッカークラブがある」という事実だけでは、存在意義を十分に生かしているとは言い難い。「ここにある意味」をクラブ全体で表現することが重要だ。サポーターをはじめとした方々に「誇り」と「憩い」を与える、という大きな目的がわれわれにはある。ピッチで奮闘する選手たちをご覧になった方々に「よく頑張っていたな。明日も仕事を頑張ろう」、「ああいうサッカー選手になりたいなあ」など、ピッチ上の選手たちから自己のポジティブなイメージを自身に投影していただくことで、それらは達成されると考える。そのためにも、プロサッカークラブは懸命に戦わなくてはならず、また、強くなくてはならないと考えている。
※本コラムは不定期で連載いたします。
<この項、了>