日本のクラブが海外リーグで戦う意味とは=アルビレックス新潟シンガポール社長コラム 第1回
海外トップリーグに所属する唯一の日系クラブ
縁あって1月からアルビレックス新潟シンガポール(以下アルビ・S)のマネージングダイレクター、いわゆる社長をやらせていただいている。前職は携帯電話のサッカーサイト「超ワールドサッカー」で編集長を務めていた。携帯電話のサッカーサイトという分野が、ビジネスとしてまさに確立していく時期にかかわれたことは、自分自身に大きな影響を与えてくれた。また、編集長という肩書きではあったが、交渉、営業、マーケティング、マーチャンダイズなどあらゆる分野を業務として行うことができ、さまざまな経験もさせていただいた。この経験がどこかで生きることを信じながら、日本を離れ、シンガポールでの毎日を過ごしている。
アルビ・Sは、その名前からもご理解いただける通り、J1リーグに参戦しているアルビレックス新潟と大いに関連性のあるクラブである。アルビレックス新潟の下部組織であるJAPANサッカーカレッジの留学生が所属メンバーとしてプレーしていることもあり、アルビ・Sの存在をご存じの方には育成組織という面がクローズアップされがちだ。しかし、表現するならばアルビレックス新潟の「分家」という言葉が、現在のところでは最も適切かもしれない。なぜなら、協賛してくださる企業の皆さま、サポーターの皆さまが求めることは多種多様であり、単に育成組織という概念だけでは多くの人々を引き付け、巻き込み続けることはできないからだ。その面では率直に難しさを感じることもあるのだが、何より海外トップリーグに所属する唯一の日系クラブという存在は、今後の日本のスポーツビジネスを考える上で非常に大きな価値を持っているとも感じている。
シンガポールプロサッカーリーグ『Sリーグ』は、1996年に発足した。基本的なコンストラクチャーには、Jリーグを模範としている部分が多く、非常に組織立っている印象を受ける。特にSリーグのチェアマンであるウィンストン・リー氏は、自身がマーケティング畑出身ということもあるのか、ビジョンを明確に持ちつつも市場を冷静に判断できる人間だ。とにかくSリーグを世界に発信していきたいと考えており、情熱にも溢れている。彼がトップにいる間に、さまざまな手法でその目的を達成するべく動いていくはずだ。
海外クラブが争うSリーグの戦略
また、シンガポールは多民族国家であり、東南アジアの商業の中心地であることを含めて考えれば、その効果は競技力向上だけにとどまらない。在住、非在住にかかわらず、参加した国の企業や住民を必然的に巻き込むことができるのだ。この戦略自体が大胆、かつ直接的に効果のあるマーケティング思考だと実感している。
最も重要とされるプレーのレベルだが、「J2の中位からJFLの上位くらい」と表現されることが多い。技術面では若干の粗さが目立つものの、個人のスピードや球際の激しさ(荒さ)は日本のそれを超越しており、早くから「世界」を体感したいと願っている若い選手にとっては、非常に良い経験になっているはずだ。実際、初めて試合をご覧になった方の中には「想像以上にレベルが高かった」という印象を口にする方も多い。
海外クラブ以外の参加クラブもユニークである(現在、Sリーグには12チームが参加)。
SAF:シンガポール軍
ホーム・ユナイテッド:シンガポール警察
ヤングライオン:シンガポールU−23代表
などなど。
また、外国人枠に対して寛容な面もあり、多数の外国籍の選手が活躍する機会を得ている。今季はアルビ・S以外のクラブに6人もの日本人選手がさまざまなクラブに所属しており、実際にチームの中心として活躍の機会を得ている。