キタサンブラックに「ありがとう」を――武豊も感慨「騎手冥利。感謝しかない」
有馬記念1レースにかけた思い
武豊はこの日、有馬記念のみに騎乗を絞り、その1レースに思いをかけていたという 【写真:中原義史】
一昨年、昨年のような差し馬の強襲に泣いた姿はもう見せない。最後に見せる姿はまさに独壇場。後続に影を踏ませることもなく、完勝で現役ラストレースにピリオドを打った。改めて、武豊がキタサンブラックと走った最後の2500メートル振り返った。
「これまで自分がキタサンブラックに乗ってきて、今回はその集大成という気持ちもあった。去年の2着で“結果の大きさ”というものを味わっていますから。なので、今回は本当に丁寧に乗りましたね。1メートルずつクリアして、最後の2500メートルで『ああ、良かった』と」
朝から中山のレースを見ていたファンならすでに気がついていたと思うが、実はこの日、武豊は有馬記念の1レースしか騎乗していない。「他のオーナーの方たちにも理解してもらい、この1レースだけにしていただきました」と、そうした背景からも武豊がこの1鞍にかけていた気持ちの大きさが分かる。そしてキタサンブラックと自らが歩んだ2年間の集大成は、これ以上ない形で、最高のハッピーエンドになった。
「『ありがとう』しかないですね。色んな勉強をさせてもらいましたし、騎手としても成長できたと思います。感謝しかないです」
サブちゃん新曲披露、最後は『まつり』の大合唱
「これ以上の幸せはありません。今日も3コーナーあたりから涙がポロポロと出てしまいましたし、これ以上しゃべっているともう泣きそうです。81歳になって、一生のうちにこんなに感動する日が来るなんて」
お別れセレモニーでは北島オーナーが『まつり』を熱唱! 【写真:中原義史】
「ブラックには『ありがとう』、それしかありません。別れはつらいですが、終わりと同時に始まりがあります。キタサンブラックもそうして新しい道に進ませてあげたい。ブラックの子どもたちがターフを走ってくれる日が来たら、また北村君、武さんに乗ってもらいたいですね(笑)」
2世への期待、武豊「騎手を辞められない」
「北村君とも話していたんですが、種牡馬としても成功すると思いますよ。楽しみですし、これでまた騎手を辞められなくなりますね(笑)」
2世の活躍も期待されるキタサンブラック、今は「ありがとう」の言葉を送ろう 【写真:中原義史】
「ブラックタイドは自分が乗っていた馬ですし、ディープの兄ですからね。キタサンブラックにはそうした血のドラマも感じますし、色々なことがつながっているなと感じますね」
そして、武豊はキタサンブラックとの日々を「騎手冥利に尽きる」と語り、「こんな名馬にめぐり合えて幸せですね」と笑顔を見せた。競馬ファンも思いは同じだろうし、実際に僕がそうだ。これほどの名馬のレースを見ることができて幸せだ、と。北島オーナーが涙をこらえて語ったように、もう来年からその美しい走りを見ることができないのは寂しいかぎりだが“終わりは始まり”。新たなキタサンブラック伝説がここから始まる。だから、第2の道へと旅立つ七冠馬に向けて、僕らは感謝の思いを込めて送り出そう――「ありがとう!」。
(取材・文:森永淳洋/スポーツナビ)