選手権を通じて際立った青森山田の決定力 プレミアでの積み重ねの先につかんだ栄冠

川端暁彦

東海大仰星と佐野日大が残した大きなインパクト

個々の力量差を全員の献身性と戦術的工夫で埋める佐野日大の戦い方はサッカーの面白さをあらためて教えてくれた 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 もちろん、世界中のサッカーがそうであるように下部リーグからのジャイアントキリングがカップ戦の醍醐味(だいごみ)であり、学年ごとに戦力が変わる高校サッカーではなおさらその傾向が強い。今大会でも佐野日大(栃木)と東海大仰星(大阪)が府県リーグ所属のチームながら4強入りし、大きなインパクトを残した。

 個人的に東海大仰星については府予選の試合を観て、上位進出は十分にあると予想していたのだが、佐野日大に関しては完全にサプライズだった。大会1週間前の試合を観ながら、その躍進を予見できなかったのは自らの不明を恥じるほかなく、海老沼秀樹監督には「(私の目は)節穴でした」と直接謝罪させていただいた。個々の力量差を全員の献身性と戦術的工夫で埋めながら戦う様は、まさにサッカーの面白さをあらためて教えてくれるもの。こういうチームがあるからこそ、それを凌駕(りょうが)する攻撃もまた育っていくことだろう。

 早期敗退となった高校の中では市立船橋(千葉)のクオリティーの高さが際立っていた。優勝した青森山田とは対照的に、決定力を欠いて無失点のまま敗退となってしまったが、一見の価値を持ったチームだったのは間違いない。老練な小嶺忠敏監督に鍛え抜かれてダイナミックなサッカーを見せたプリンスリーグ九州王者の長崎総科大附(長崎)は年間を通じた戦いぶりを含めて印象深いし、個性的な選手が堅守速攻を狙うスタイルで初の8強入りを果たし、準々決勝で青森山田と接戦を演じた正智深谷(埼玉)も実に面白かった。

 そんな数多くの個性的な高校が頂点を目指した今大会で最後に笑ったのは、青森山田だった。「一体どうして勝てないんだろう」と思い悩みながら、シーズンごとに新しい創意工夫を持ち込みつつも貫くべきは貫いた黒田監督に率いられたチームの栄冠は、雪国の高校を含めて、多くの指導者と選手に小さからぬ勇気と新たな闘志を与えたに違いない。

 これまで一度も見せたことのないような笑顔と泣き顔が溢れる青森山田の名物監督の表情を見ながら、また来シーズンの各大会と、各チーム指揮官の創意工夫が楽しみになる。95回目の高校サッカー選手権は、そんなエンディングを迎えることとなった。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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