遅咲きの25歳、堂々のオランダデビュー 山崎直之がたどり着いたプロの道
守備面での役割も期待されたデビュー戦
デビュー戦では相手キーマンにマンツーマンで付くなど、守備面での貢献も求められた 【Getty Images】
攻撃的MFのポジションながら、山崎には相手のキーマンの一人であるアンドリュー・ドライバーにマンツーマンで付くというタスクが与えられたため、守備の面での役割も重要だった。
デ・フラーフスハップはオランダリーグではめずらしい4−4−2フォーメーションを採用しており、4−3−3のテルスターは中盤で数的不利に陥ってしまう。前半のテルスターは、デ・フラーフスハップのフリーマンを捕まえ切れず、山崎のマークの受け渡しも味方の意図と合わず混乱気味だった。それでも一度ボールを持てば、安定したキープと正確なパスで滅多にロストすることはなかった。
0−1とビハインドを負った後、45分には山崎はカウンターに参加し、ペナルティーエリア内右奥へ走り抜けてスルーパスを受けGKと1対1になるも、角度のないところからのシュートはセーブされてしまった。
「あれは、ちょっと決めたかったです。(失点シーンについて)前半は相手のアンカーが(フリーで)浮いていたので、僕もどう見ようか考えていたんですけれど、うまく選手とコミュニケーションが取れなくて伝えられなかった。曖昧になってしまったことで、失点につながったのかなと思います」(山崎)
ファン投票でMOMに選ばれる
「あれは得意なプレー。相手を見ながら緩急をつけてかわすのは得意なんです」(山崎)
1−1で迎えた79分、左サイドから右の山崎に大きなサイドチェンジのパスが出る。オーバーラップしたリリパリーに山崎がパスを出した後、再びボールは左サイドへ。ここからのクロスに、リリパリーが美しいボレーシュートを決めてテルスターが逆転に成功した。
デ・フラーフスハップは終盤、センターバックを前線に上げてパワー攻撃を仕掛ける。87分、巨漢ヤン・ラマースのシュートをテルスターが必死のブロック。さらにこぼれ球をデ・フラーフスハップが拾い2次攻撃に移ろうとする。この苦しい時間帯に、山崎が粘り強い守備でボールを奪い取り、カウンターの起点となってテルスターは一息つくことができた。やがてタイムアップのホイッスルが鳴り、テルスターが2−1で勝利し、勝ち点3を取った。
それから3分後、場内アナウンスがマン・オブ・ザ・マッチ(MOM)に山崎が選ばれたことを伝えたのである。
MOMはホームチームの選手を対象にファンの投票で選ばれるものだ。ホーム初お披露目の試合ということで、多分にご祝儀的な意味合いもあったかもしれないが、フル出場を果たし、しっかりチームの勝利に貢献しただけに非常に価値のあるものだった。
「ユキは試合の中でどんどん良くなっていった。彼はあまり英語をしゃべることができないけれど、試合前に日本人の友人を通訳として介して、戦術をしっかり理解してもらった。後半、うちは戦術を変えたが、ユキの仕事は前半とそれほど大きな違いはなかったし、言葉の問題はなかった。今日のユキの採点は7。合格点だ」(フォンク監督)
「もっとできたという思いが強い」
MOMに選出された山崎。試合後には「もっとできたのにという思いが強い」と語った 【中田徹】
「自分にとっては初戦ということで、硬さもあった。なかなか自分の特長であるドリブルや、前を向いたプレーができなかった。苦しい時間帯だったんですけれど、何とか耐えて勝つことができて良かったです」
オランダに来てから3カ月。待ちに待ったデビューとあって、思うところもあったのではないかと尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「今日まで、チームは5試合を戦っていました。外から見ながら、いろいろ思うところもあったし、自分が出たらこういうプレーをしようと思い描いたものがあったんですけれど……。自分としては、もっとできたのにという思いが強いです。
やっぱり今日は守備に追われる時間が多かったですが、その中でもしっかりキープしてパスの中継点になることや、個人でかわして打開することなどもできると思うので、これから意識してやっていきたいと思います。次の試合からはもっと前を向いたプレーができるよう貪欲に頑張りたいです」
チームメートたちが「ユキ! MOM! 早く2階に上がってこい」と山崎を急かす。2階のラウンジに行くと、MOMの表彰のために花束とシャンパンが用意されていた。多くの関係者やスポンサーたちからねぎらわれ、スタジアムを出た瞬間、テルスターのサポーターから山崎に「アリガトー!」と叫ぶような感謝の言葉が贈られた。