【UFC】“UFC対PRIDE”“元UFCヘビー級王者対決”アルロフスキー戦に臨むジョシュの虎視眈々

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ジョシュ・バーネットvs.アンドレイ・アルロフスキーが日本時間9月4日(日)開催のUFCファイトナイト・ハンブルクのメインイベントで激突 【Zuffa LLC】

 ジョシュ・バーネット(米国)、年齢38歳、戦績34勝8敗。2002年に開催された「UFC36」でランディ・クートゥア(米国)を下してUFCヘビー級のベルトを獲得した。弱冠24歳での戴冠は、今なおUFCの最若年ヘビー級チャンピオンのレコードである。
 日本でも17試合を戦い、特にPRIDEでアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ(ブラジル)、ミルコ・クロコップ(クロアチア)、エメリヤーエンコ・ヒョードル(ロシア)らとともに世界最強の座を巡ってしのぎを削っていたことは記憶に新しい。

 アンドレイ・アルロフスキー、年齢37歳、戦績25勝12敗。ベラルーシに生まれ育ち、20歳でサンボのチャンピオンに輝く。その後、アメリカに移住して2000年にUFC入り。ちょうどバーネットがPRIDEで激闘を繰り広げていた頃の2005年に開催された「UFC51」でティム・シルビア(米国)を下してUFCヘビー級ベルトを獲得。
 いったんUFCを離れ、他団体で4連敗を喫する暗黒時代を経るものの、2010年に名伯楽グレッグ・ジャクソンのジムに加入し再生、現在はUFC2度目の所属でトップ戦線を闊歩(かっぽ)する。

 合計戦績80戦以上、お互いに元UFCヘビー級チャンピオン、そして共にキャリアを通じて一貫して世界トップ10クラスの実力を維持してきたといっても過言ではない豊富なキャリアと経験を携えて、両選手は日本時間9月4日(日)開催のUFCファイトナイト・ハンブルクのメインイベントで激突する。これだけのベテランにして、今回が初対決というのは意外なことだ。(文 高橋テツヤ)

“青い瞳のケンシロウ”はもはやベルトに興味はないのか

 バーネットは語っている。「アンドレイ戦は長年希望していた試合だ。勝ち方もベルトの取り方も熟知しているオレたち2人のヘビー級ベテランファイターが、これまでの全経験を持ち込んでぶつかり合う。メインイベントにふさわしい試合、タイトルマッチと遜色ない試合、まるで“(バス・)ルッテン対船木(誠勝)”のような試合をお目にかけようと思っている。自分がPRIDEのトップ戦線で活躍していた頃、彼はUFCのチャンピオンだった。だから、この試合はいわば、PRIDE対UFCの図式だと見てもらってもかまわない。もっとも、UFCを離れていなければオレがずっとUFCのチャンピオンだったはずだけどね」

 日本では“青い瞳のケンシロウ”としても知られるバーネットは最近、オクタゴン外でのマルチな活躍が目立つ。新作映画『Never Back Down: No Surrender(邦題:マッド・ウォーリアーズ 頂上決戦)』には主役級で出演。またアメリカでの新日本プロレス中継のテレビ解説者としても人気急上昇中だ。さらに所属先のコンバット・サブミッション・レスリングでは、MMAやキャッチレスリングの後進育成にもますます力を注いでいる。Invicta所属の女子格闘家コリーン・シュナイダー(米国)と愛情あふれる共同生活を始めるなど、私生活も充実。バーネットはもはや引退後を視野に入れているのだろうか。それとも、まだまだUFCヘビー級チャンピオンへの道を歩むつもりなのだろうか。

 それについてバーネットは彼らしい言い回しで次のように語っている。「映画は前からやってみたかったことで、これからも演技の勉強はしたいと思ってはいるが、だからといって格闘技から引退するかどうかということとは関係ない。まだまだ自分は格闘家なのであって、俳優は副業だと思っている。ベルトについては世界中のどんなベルトであれ、明日にでも手に入れられると思っている。そんなことはこれまでのキャリアでもう証明済みなんだ。UFCのベルトに挑戦することになるのなら、それもよい。そうならないのなら、それでもかまわない。ただ、これから何試合か勝ち進んで、もう一度UFCのベルトに挑戦する権利を獲得するということには今さら興味が持てない」

バーネット流、ヘビー級戦線の歩き方

「“PRIDE対UFC”と見てもらってもかまわない」と語るジョシュ 【Zuffa LLC】

 バーネット対アルロフスキーと聞くと、正直、やや懐メロの香りもするとはいえ、役者がそろったメインイベントはおそらく、迫力とガッツあふれる好試合になるものと思われる。現にバーネットは昨年のUFCファイトナイト・ジャパンのメインイベントで、ベテランのロイ・ネルソン(米国)を5ラウンドマラソンマッチの末に下すという、顧客満足度の高いパフォーマンスを披露している。
 ただ、ネルソン戦にせよアルロフスキー戦にせよ、これがもし他の階級であれば、勝ったからといって直ちにタイトルショットを獲得するような種類の試合かというと、そうでもない、と理解できるような試合だったと思うのだ。

 ところが、なぜかこのヘビー級だけは他の階級と勝手が違っている。まず、ベテラン選手層が厚く、若い選手の台頭をなかなか許さない状況がここしばらく続いている。次のペイ・パー・ビューイベントとなる「UFC203」でチャンピオンのスティペ・ミオシッチ(34歳)に挑戦するのは、かつてのK−1ファイター、大ベテランのアリスター・オーフレイム(36歳)だ。このほか、マーク・ハント(42歳)、ロイ・ネルソン(40歳)、ファブリシオ・ヴェウドゥム(39歳)といった顔ぶれがランキング上位に踏ん張り、勝ったり負けたりをしぶとく繰り返している。まるで西部開拓時代の荒くれ者たちがいまだに現役で幅をきかせているかのようなのだ。

 時代がなかなか進化していかないことに加え、もともと歴史的にもUFCヘビー級のタイトルを3回続けて連続防衛したチャンピオンは存在していない。ヘビー級王者はことごとく短命王座に終わってきているのだ。ベテランぞろいだけにケガ人や長期欠場者も多く、大会直前の試合決定や対戦相手の変更、暫定王者も比較的多い。
 一発当たればノックアウトになってしまう粗っぽい階級でもあり、アップセット――下馬評で不利と見られていた選手が優位側のファイターに勝利すること――も少なくない。しかもタイトル挑戦者にはスター性や観客動員力などといった勝ち負け以外の要素も加わるとなると、今はヘビー級タイトルへの道は、とても分かりにくくなっているのだ。逆にいえば、前回に白星を挙げた上位ランカーには誰でも突然タイトルマッチに抜擢(ばってき)される可能性があるのが現状である。

 バーネットもそこは十分にわきまえているようで、「ヘビー級戦線はかなり馬鹿げた状況になってきているから、こっちもますます馬鹿になってやろうと思っている」と語っている。思えば「UFC200」にブロック・レスナー(米国)参戦が発表された時、ツイッターでいち早く対戦相手として名乗りを上げたのもバーネットだった。一見、タイトルになど興味がなさそうに見えるバーネットだが、裏腹な本心ではベルトのチャンスやマネーファイトのチャンスが転がり込んでくるのを慌てず騒がず待っているのではないか……筆者はそう見る。そんな時が来るまで、バーネットはプロフェッショナルらしい試合を積み重ねつつ、腕を伏して待ち続けるはずだ。そう、ヘビー級では何が起きるか分からないのだ。
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