攻撃の起点として存在感を発揮した柏木 守備の不安を解消し”代表”定着なるか?

元川悦子

攻撃では存在感を発揮するも……

キリンカップでは2戦連続のスタメン出場を果たした柏木。ブルガリア戦では先制弾をアシストするなど活躍を見せた 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 大雨の降りしきる大阪・吹田スタジアムで7日に行われたキリンカップ決勝のボスニア・ヘルツェゴビナ戦は日本が1−2で敗れた。本田圭佑、香川真司の両エースが負傷欠場を強いられた大一番に向け、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は「今回は他のプレーヤーにチャンスがある。このような対戦相手にどんな反応が起こるか見てみたい」と新たなチームのバリエーション構築に期待を寄せていた。

 3日のブルガリア戦で岡崎慎司の先制弾をアシストするなど7得点大勝の原動力となったボランチの柏木陽介は2試合連続となるスタメン出場。今回も清武弘嗣、岡崎らアタッカー陣とうまく連係しながら攻撃の起点を作る必要があった。この日、トップ下に入った清武について、柏木は「キヨ(清武)とはずっと試合をしているから良さも分かっているし、全く問題ない」と自信を持ってゲームに入った。

 前半の日本は立ち上がりから積極的にいき、ハリルホジッチ監督が求めるインテンシティー(強度)の高いサッカーを実践していた。柏木、清武、宇佐美貴史という左のトライアングルがいい距離感を保ち、コンビを形成。そこに長友佑都も絡んで、左サイドから分厚い攻めを見せていた。前半28分の先制点の場面も、自陣に下がった柏木が森重真人にボールをさばき、そこから左の宇佐美へ展開。彼の個人技から相手DFを巧みにかわし、折り返したボールに飛びこんだ清武が反応。左足でシュートを決めるという流れるような崩しの得点だった。

 しかし、直後の失点シーンでは日本のカウンターへの対処が遅れた。アルミン・ホジッチのシュートを西川周作がブロックし、こぼれ球を198センチの長身FWミラン・ジュリッチが押し込んだ場面ばかりがクローズアップされがちだが、その前にジュリッチがクサビに入った時点で柏木、長谷部誠の両ボランチの戻りが遅れていた。ジュリッチのヘディングの落としを受けたマリオ・ブランチッチがスルーパスを出した瞬間は、長谷部がチェックに行ったものの、柏木の位置取りはやや中途半端になっていた。この場面に象徴される通り、最終ラインのカバーリングは前半45分間を通して長谷部が一手に担う傾向が強く、柏木の守備への関わり方は物足りなさを感じさせた。

不完全燃焼に終わったボスニア戦

 こうした問題点に着目した指揮官は後半開始と同時に柏木と遠藤航を交代させた。遠藤にはセカンドトップのホジッチを消すとともに、ジュリッチとの競り合いのカバーが託された。これでバイタルエリア付近は落ち着きを取り戻し、長谷部も攻撃に参加できるようになったが、今度は清武、宇佐美ら前線の絡みが少なくなってしまう。最終的に日本は後半21分にFKからジュリッチに2点目を食らって逆転負けしてしまったが、攻撃に関しては柏木がプレーしていた前半の方が明らかに効果的だった。

 本人もそういう感想を抱いたからこそ「今日は半分(の出場で)で物足りなさもあった。向こうの10番(ハリス・メドゥニャニン)に『キミはすごく良い選手なのに、なんで交代したの? 疲れたの?』と言われたし」と発言し、悔しさを吐露したのだろう。

 ブルガリア戦での好パフォーマンスで、長谷部とコンビを組むボランチ一番手の座を確実にしたと見られていた柏木だったが、ボスニア戦は不完全燃焼感の残るゲームになってしまったのではないか。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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