少年サッカーの質を上げるプロとの“近さ” スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(7)

木村浩嗣

カウンターの首位チームに勝てず

5月22日、セビージャのヨーロッパリーグ3連覇の祝勝会が行われた。右は観光のハイライトとして日本でも有名な大聖堂。街とプロサッカーの距離は非常に近い 【木村浩嗣】

 プロと少年サッカーの関係ということで言えば、セビージャのような決してビッグクラブとは呼べないクラブが欧州で強いのは、戦術的に鍛えられていることが理由だと思っているのだが、それは少年サッカーでも同じなのだ。

 うちのチームはこの間、首位のチームに敗れた。全勝の彼らに勝っていれば優勝の可能性がわずかながら残っていたのだが、実力不足だった。4勝3敗の3位で残り3試合、2位でシーズンを終えることが目標になった。

 その首位チームはカウンターチームだった。前からプレスを掛けず、陣形を整えて待ち構え、中盤でボールを奪うと3本以内にシュートに持ち込む。対してうちのチームは、前からプレスを掛けてボールを奪いにいく戦い方をしている。GKから大きく蹴らずにショートパスをつないで上がっていくやり方なのだが、相手はじっとわれわれのミスを待っている。そうしてトラップやパスが乱れると一気にプレスを掛け、ボールを奪って逆襲に出る。相手はチーム全体が引いていて、うちのボール回しでは崩すことができなかった。

 つまり、カウンター対ポゼッションの構図でわれわれは負けたのだ。10、11歳の子供たち、日本で言えば小学4、5年生で、しかもクラブチームではなくスクールのチームでこのくらいの戦術的な攻防があるのだ。

戦術は個の劣勢をチームとしての優勢に変える

 子供たちはボールを触るのが大好きなので、ポゼッションチームの方が作りやすい。作り方は大きく2段階に分かれる。第1段階では、パスをつなぐための適切なポジショニングの仕方を教える。第2段階では、ボールを支配する時間を長くするために、ボールをすぐに回復する方法(=前からのプレス)を教える。

 前からのプレスを教えるのは簡単ではない。数的不利の場合、例えば相手のDFが2人でこちらのFWが1人ではプレスが効くわけがない。では、どうするか? あるタイミングでMFがプレスに飛び出し、そのMFの穴をDFが上がって埋めるというメカニズムが必要なのだ。この第2段階ができていないチームがスクールレベルでは多く、それら中途半端なポゼッションチームにはうちは勝てる。だけど、あのカウンターチームに勝つにはどうすればいいのか?

 2つ方法があると思う。ポゼッションの質を上げてミスを減らせば、失点を減らせて勝率は確実に上がるだろう。あるいは、うちもカウンターサッカーを身に付け、ポゼッションサッカーと2本立てにすれば、おそらく攻略できるだろう。だが、いずれにしてももう時間が足りない。来季の課題として持ち越しだ。

 昨シーズン、セビージャ市王者となったわがチームは、個人のクオリティーが高くポゼッション1本で押し切れた。だが、今季のチームには何かしらの戦術的な手直しとレベルアップが必要だ。戦術は個の劣勢をチームとしての優勢に変えてくれる。戦力で劣るセビージャが欧州を制覇できたのも戦術的に優位だったからであり、それは育成世代に下支えされているのだ。

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著者プロフィール

元『月刊フットボリスタ』編集長。スペイン・セビージャ在住。1994年に渡西、2006年までサラマンカに滞在。98、99年スペインサッカー連盟公認監督ライセンス(レベル1、2)を取得し8シーズン少年チームを指導。06年8月に帰国し、海外サッカー週刊誌(当時)『footballista』編集長に就任。08年12月に再びスペインへ渡り2015年7月まで“海外在住編集長&特派員”となる。現在はフリー。セビージャ市内のサッカースクールで指導中。著書に17年2月発売の最新刊『footballista主義2』の他、『footballista主義』、訳書に『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』『サッカー代理人ジョルジュ・メンデス』『シメオネ超効果』『グアルディオラ総論』(いずれもソル・メディア)がある

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