残留か移籍か、決断を迫られる吉田麻也 プレミア在籍4季目は厳しいシーズンに

田嶋コウスケ

シーズン後半から出場機会が激減

プレミア在籍4季目は吉田にとって厳しいシーズンになった 【写真:ロイター/アフロ】

「ベンチに置いておきたいタイプになってしまっている」

 サウサンプトンの吉田麻也がそうつぶやいたのは、ベンチスタートのまま出番のなかったプレミアリーグ第37節のトッテナム戦(現地時間5月8日/1−2)後のことだった。15日に行われた最終節から直近7試合を振り返っても、そのうち6試合で「ベンチスタート+出番なし」。シーズン後半戦からは出場機会が激減し、リーグ戦で先発したのはわずか2試合と厳しい状況が続いた。

 吉田の2015−16シーズンをひも解いても同様のことが言える。38試合中、先発は10試合で途中出場が10試合。合計20試合の出場にとどまり、満足と言うにはほど遠い結果に終わった。

 当然、吉田も現状に危機感を募らせている。「難しいシーズンになったけれど……」と記者が水を向けると、険しい表情のまま3秒ほど間を空けてから、「現状はかなり厳しいと思います」と答えた。日本代表DFの言葉通り、プレミア在籍4季目にしてレギュラーの座が近づくどころか、逆に遠のいてしまった。

 シーズン序盤は順調だった。シーズン開幕から4試合連続でセンターバック(CB)としてスタメンに名を連ね、第4節のノーリッジ戦ではクリーンシートの勝利(3−0)に貢献した。雲行きが変わったのは、昨年9月に移籍が決まったオランダ代表CBのフィルジル・ファン・ダイクの加入だ。ロナルド・クーマン監督の強い希望で補強が実現し、吉田はCBの3番手に降格した。ここから4バック採用時は、ファン・ダイクと主将のジョゼ・フォンテが不動のCBとしてピッチに立ち、吉田は彼らのバックアッパーの位置づけに収まった。

 しかし、クーマン監督の信頼がゼロになったわけではない。ユーティリティー性と守備力が評価され、サイドバック(SB)として起用されるようになったのだ。出場機会が増えるならと、本人も意欲的だったが、不慣れな右SBとして先発した第6節のマンチェスター・ユナイテッド戦(2−3)と、第14節のマンチェスター・シティ戦(1−3)で判断ミスと集中力の欠如から失点に関与してしまう。それ以降、右SBのセドリック・ソアレスとクコ・マルティナがチームにフィットし始めたことも重なり、吉田のSB起用は試合終了間際の「守備固め」時に限定されるようになった。

吉田に求められた限定的な役割

日本代表としても活躍する吉田だが、クラブで任される役割は極めて限定的なものだった 【Getty Images】

 だが、それでも先発のチャンスが閉ざされたわけではなかった。対戦相手の攻撃力が高いと見ると、クーマン監督は3人のCBを配置する3バックシステムを採用した。吉田も当初は左CBとしてスタメン出場し、第25節のウェストハム戦では決勝点も挙げ、チームの勝利(1−0)に貢献。英国営放送『BBC』のマン・オブ・ザ・マッチにも選ばれた。

 しかし、ここでまた壁が現れる。左SBを本職とするライアン・バートランドが台頭し、次第にオランダ人指揮官はこのイングランド代表DFに3バックの一角を託すようになったのだ。SBで出場チャンスをつかみきれなかったことはもちろん痛いが、CBが本職の吉田の立場からすれば、3バック採用時にSBのバートランドにポジションを奪われたことの方が、ずっと悔しかったのではないだろうか。かくして、吉田の出場機会は尻すぼみになっていったのである。

 最終的に、日本代表DFの役割は極めて限定的になった。相手が総攻撃を仕掛けてくれば「守備固め要員」として3バックに入り、突発的にSBを任されてもノーミスで無失点に抑える。けが人が発生した際の非常時も、そのカバー力でピッチに入った。吉田は指揮官の要望に応えようと必死に守備に走った。

 ここに、吉田が置かれていた状況の難しさがある。

 常時ピッチに立ち続け、試合勘を研ぎ澄ましておくのが理想だが、ベンチスタートの吉田は、そんなことは言っていられない。出番の声がいつ、そしてどのポジションでかかっても、盤石の守備を見せる必要があった。しかも、数少ない出場のチャンスを最大限に生かすしか道はなかったが、皮肉なことにサウサンプトンはシーズン後半戦から連勝街道を走り始め、「守備固め」を必要とする機会すら減っていった。

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著者プロフィール

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。2001年より英国ロンドン在住。サッカー誌を中心に執筆と翻訳に精を出す。遅ればせながら、インスタグラムを開始

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