発展途上も、輝きを放つラッシュフォード デビューから2カ月、順調に成長中

山中忍

連戦の中で見えた課題と伸びしろ

守りを固める相手への対処など、課題も見えた 【Getty Images】

 逆にこれらの特長が似ている競争相手として、昨夏に移籍金3600万ポンド(約66億円/当時)で加入したマルシャルがいる。ラッシュフォードの台頭後は4−2−3−1システムの2列目左サイドでの出場が多いが、その背景には、前線のどこでも機能するマルシャルに対し、現時点でのラッシュフォードが「本能」でプレーしやすい1トップ以外では効き目が薄いという事情があると思われる。言い方を変えれば、2歳上の年齢以上に、古巣のモナコで、母国フランスのトップリーグに加えてチャンピオンズリーグの舞台も経験しているマルシャルには、オフ・ザ・ボールでの対DFの駆け引きや、守備面も含む集中力などで一日の長があるということだ。

 国内外で2試合4得点のデビューを果した直後の第28節ワトフォード戦(1−0)、ラッシュフォードはアウェーで守りを固めてきた敵に対して最前線で存在感を欠いた。勝利へのきっかけは、途中で1トップのラッシュフォードとアウトサイドのマルシャルのポジションを入れ替えたファン・ハールの判断にあった。続くウェスト・ブロムウィッチ・アルビオン戦(0−1)でも、より守備的な相手に前線中央で苦戦。チームが退場者を出した後は右サイドでのアップダウンを要求されることになったが、後半の一場面で距離を詰め切れずに敵の決勝点を呼ぶクロスを上げさせてしまった。失点直後にピッチをたたいて悔しがる本人の姿が、未然に防げたクロスだったことを物語る。

 前述したマンC戦での独走ゴールは、その翌節の出来事。必然的にイングランド国内ではユーロ(欧州選手権)2016でのイングランド代表メンバー入りの可能性さえささやかれた。だが、さすがに時期尚早だろう。欧州代表レベルのDFたちはプレミア平均レベルのDFたちよりも巧妙かつ狡猾に相手FWを消しにくる。今季の大半をU−18レベルで過ごしてきたラッシュフォードは、3月後半にU−20代表デビューを果したカナダとの親善試合(1−2)でさえ、「危険人物」として注視されて1トップの仕事をさせてもらえないまま90分間を終えた。

 もちろん、だからと言って悲観的になる必要などない。1軍経験2カ月余りの18歳が、実戦で磨くべき課題を抱えていても当たり前。だからこそマンUでも、1軍デビューが訪れた元々の理由であるルーニーとマルシャルのけがが癒えた後も起用されて続けている。

来季はマルシャルとの2トップを望む声も

ファンやメディアはラッシュフォードとマルシャルの若き2トップ結成を望んでいる 【Getty Images】

 前述のレスター戦でも、実際の出来は及第点止まり。貢献度では、攻撃の糸を引いたルーニーと、チーム最大の脅威となって先制ゴールも決めたマルシャルが上だった。自身は、そろって屈強で呼吸も良いウェズ・モーガンとロベルト・フートの相手CBコンビに沈静化された。前半の5分と30分すぎに打ったシュート2本も難なくブロックされている。最終的に退場となった相手ボランチのダニー・ドリンクウォーターに、1枚目のイエローカードを出されたシーンではファウルを強いてはいる。しかし、倒される前のタッチが強すぎて珍しくコントロールを誤っていただけに、実際にはFKをもらえて幸運とも言える場面だった。

 それでも、思うように展開に絡めない時間帯が続く中、苛立つことなくセンターFWとしてやるべきことをやろうしていた姿勢は評価できる。先制シーンでも、相手右サイドバックのダニー・シンプソンがやみくもに追いすぎた感はあるが、手を上げてクロスを要求しながらゴール正面へと走り込んでシンプソンを引き寄せ、左サイドのマルシャルにスペースを与えていた。そして、1軍で6度目のフルタイム出場という経験。しかも、負ければ欧州カップ戦の出場枠争いで不利な立場に追い込まれ、レスターに自軍のホームでリーグ優勝を決められるはめになるという、負けられなかった一戦での経験だ。

 まだまだ発展途上だが、ラッシュフォードの育成継続は順調。その証拠に、今冬の時点でもストライカー補強の必要性が指摘されていたはずのマンチェスター・ユナイテッドには、ファンの間のみならずメディアでも、来季はラッシュフォードとマルシャルの若き2トップ結成を望む声が高まり始めている。

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著者プロフィール

1966年生まれ。青山学院大学卒。西ロンドン在住。94年に日本を離れ、フットボールが日常にある英国での永住を決意。駐在員から、通訳・翻訳家を経て、フリーランス・ライターに。「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、ある時は自分の言葉でつづり、ある時は訳文として伝える。著書に『証―川口能活』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『フットボールのない週末なんて』、『ルイス・スアレス自伝 理由』(ソル・メディア)。「心のクラブ」はチェルシー。

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