内山高志の米国進出が遅れた理由 米国テレビ局の影響と日程面の問題
12度目の防衛戦は国内で開催
12度目の防衛戦も国内での試合となった内山。米国進出は再び先送りとなった 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】
対戦相手も、名前の挙がっていたニコラス・ウォータース(ジャマイカ)、ハビエル・フォルトゥナ(ドミニカ共和国)という、ともに無敗の実力者ではなく、若い24歳のヘスリール・コラレス(パナマ)に決まった。柔軟なサウスポーのコラレスは、WBA世界スーパーフェザー級“暫定”王者(実質1位挑戦者)という肩書きこそ持ってはいるものの、世界的にはまだ無名の存在と言っていい。海外で高く評価される強豪に勝って、真価を証明したい、名前を上げたいという内山の希望も叶えられなかった。
テレビ局がOKを出さなかった
4月27日に大田区総合体育館でトリプルタイトルマッチを行う(左から)田口、内山、河野 【写真は共同】
渡辺均・ワタナベジム会長によれば内山本人とも話し合った上で、王者側である内山のファイトマネーなどの条件を下げてでも、まずは米国で試合をすることを最優先に交渉にあたっていたという。実際、米国の大物プロモーター・ボブ・アラム氏が率いる大手プロモーション会社、トップランクが抱えているウォータースとの交渉は「かなりの段階まで進展していた」と渡辺会長は強調する。その上で最終的にボクシング中継では米国最大手のテレビ局のひとつであるHBOが、内山vs.ウォータース戦に難色を示したことがネックになったと説明した。
どこの国であっても、世界戦のような大きな試合を手掛けるプロモーターとテレビ局との関係は密接なもの。特に米国では対戦カードの最終決定権を握るほど、影響力は強い。そのテレビ局が首を縦に振らないとなれば、試合成立はほとんど不可能に近いということになる。
考えられる理由として、まずウォータースの現状がある。2014年10月には5階級制覇のスター選手、ノニト・ドネア(フィリピン)にKO勝ちし、一躍評価を高めたウォータースだが、昨年3月に予定されていた防衛戦をインフルエンザで延期したのに続き、6月には保持していたWBA世界フェザー級“スーパー”王座を体重オーバーで失うという失態を演じた。さらに12月のスーパーフェザー級転向初戦では、当時IBF同級8位のジェイソン・ソーサ(米国)と引き分け。ただ内容的にはウォータースの勝利は明白で、判定は論議を呼ぶものだったとはいえ、“格下”のソーサ相手に求められていたのは派手なKOでの再出発だったはず。ウォータースがHBOの信頼、評価を取り戻すに至らなかったことは想像にかたくない。
放送局間での駆け引き
ドネア戦の勝利で株を上げたウォータースだが、その後の失態で“商品価値”が下がっているが…… 【Getty Images】
あるいは今年からHBOのスポーツ部門のトップが交代し、体制が変わったことも少なからず影響しているのかもしれない。ボクシング関連の予算縮小の噂もあるようで、長年良好な関係を築いてきたHBOに揺さぶりをかける狙いもあるのか、ライバル局の「Showtime」にロマチェンコvs.ウォータース戦を放送させる可能性も否定しないとのアラム氏の発言が、海外サイトを通じて伝わっている。
交渉期限が迫りコラレス戦に決定
フォルトゥナは日程面などで条件が合わず。次回戦うことになるが、どこで開催されるかはまだ不明だ 【Getty Images】
米国東部を本拠に、米国を主戦場とするフォルトゥナだが、こちらもテレビのハードルをクリアできなかったと渡辺会長は言う。次に日本開催に切り替えてフォルトゥナ陣営と交渉するも、高額なファイトマネーを要求してくるなど、条件面で折り合わず。30日以内の交渉期限が迫り、入札が視野に入ってきたところで、両陣営が対戦を1試合先送りすることで合意。WBAの承認も取りつけ、コラレス戦を組んだというのが大まかな経緯になる。
恐らくだが、フォルトゥナ陣営と折り合いがつかなかった条件には日程面も含まれていたのではないか。ワタナベジム、中継のテレビ東京としては、並行して河野公平、田口良一の防衛戦の会場などを調整していたはずで、日本開催となるなら4月27日は譲れない基本線だったはずである。
内山にとっては“次”が正念場
渡辺会長は次こそは内山の希望を叶えたいと話す。だが、コラレス戦の次は今のところフォルトゥナとの指名戦が優先される。となると依然としてテレビのハードルが残されることになるのだが……。
一方で渡辺会長は具志堅用高氏の防衛記録13を36年ぶりに更新する、14度目の防衛戦を大みそかに開催したいと青写真を描いている。つまり、これは国内開催が前提。今年11月で内山は37歳になる。コラレス戦に勝利することで事態が劇的に好転するとは考えにくいが、内山には多くの時間が残されているわけではない。歴代有数の無敗のハードパンチャーが海を渡れるかは、いずれにしても“次”が正念場かもしれない。
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