福本さんの大予言を生かした「累積実況」 ABC・楠淳生アナの野球実況論
アナウンサー歴30年以上の楠アナ。プロ野球、高校野球で数多くの実況を行ってきた 【写真提供:朝日放送】
スポーツナビではプロ野球の開幕を数週間後に控えた3月上旬、テレビ、ラジオを通じて活躍する実況アナウンサー3名にインタビュー。中継の裏側や実況テクニック、解説者とのエピソードなどを語ってもらった。今回は大阪・朝日放送(ABC)の大ベテラン・楠淳生アナウンサーが登場。プロ野球、高校野球の実況として活躍し、特に世界の盗塁王・福本豊さんとのコンビは多くのファンに親しまれている。事前にTwitterで募集した質問を含めて、楠アナの野球実況論を聞いた。
「居酒屋実況」のきっかけは「たこやき事件」
08年7月29日。神宮のヤクルト戦は雨でコールドゲームに。ゲリラ豪雨でびしょ濡れになりながら、福本さんと楠アナは放送を行った 【写真は共同】
スポーツが好きで、現場に携わりたかったからですね。植草貞夫さんというABCの先輩アナウンサーが、1979年夏の甲子園・箕島対星稜戦、延長18回の「甲子園に奇跡は生きていました」と実況したんです。それが心に残ってABCに入れば夏の高校野球や阪神戦の実況ができる、と思い志望しました。入社後は94年の1年間だけメジャーの実況を学びにマリナーズへインターンシップで行きましたが、それ以外は全部夏の高校野球、プロ野球の実況をやっていますね。
――楠さんと言うと、福本豊さんとの「居酒屋実況」が知られています。
最初に福本さんと化学反応が起きたのは、92年5月27日の阪神対横浜大洋戦。1対1の延長戦でスコアボードに0が並んだ時(注)、「福本さんどうですか? 点入らないですね」と聞いたら「たこ焼きみたいやな」と。有名なたこ焼き事件で、みんなが笑い転げてしまいました。それをきっかけに、大阪のおじさんの面白さが出ていなかった福本さんのざっくばらんに磨きがかかって、面白くなりました。
※編注・以下のようなスコアで2回に両チーム1点を入れただけで試合が進み、延長15回裏、阪神がサヨナラ勝ちを収めた。なお、福本さんは15回裏の「1」を見て、「たこ焼きにつまようじがついたな」と発言した。
大洋:010000000000000
阪神:010000000000001x
――2人で大雨の神宮球場から放送したこともあったそうですが?
あれはラジオで担当した2008年7月29日のヤクルト対阪神戦ですね。阪神リードで5回を過ぎて試合が成立したところで、豪雨になったんです。この試合は2階席の最前列に仮設の放送席を作ってそこから放送していました。甲子園の銀傘と違って神宮は雨がどんどん吹き込んでくるんです。中断中の約30分、福本さんとつながないといけませんでした。
僕と福本さんはヘッドホンと一体になったマイクをつけていたのですが、コードが短くて逃げられないんです。ところが、どんどん水が流れてきて「アカン、びしょびしょになるわ!」と言っていたら、若いディレクターが上の方に逃げたので、「お前だけで逃げるな!」と2人で口撃しましたね(笑)。他球場の途中経過などでつなぐんですが、その最中に「雷や、雷や!」と福本さんは大騒ぎ。
僕が「福本さん、放送中ですよ。しょうもない業務連絡やめてください!」と言えば、びしょびしょのアロハシャツ姿の福本さんが「アホ、そやかて服濡れてしまうやろ」と返してきて……。そんなやりとりをしていると、周りにお客さんが集まって、即興の漫才をやっているような状況になったんです。
さらに「寒いなーこんなことなかったら麻雀やっとるわー」とか、野球人の本音を言ってましたね。なんとかコールドゲームが告げられて、「ボーグルソン、儲けた白星やな」というような話をいっぱいして、中継は終了。それを朝の番組のディレクターが聞いて、編集して放送されたので、かなり話題になったようですね。
平凡なポップフライなのに……
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