車いすマラソン・土田和歌子の笑顔の理由 3度目の正直、東京で掴んだ5度目のパラ
東京マラソン9連覇を達成し、リオの内定をつかんだ土田。ゴールの瞬間は笑みがこぼれた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
2月28日に開催された「東京マラソン2016」。リオデジャネイロパラリンピックの選考レースを兼ねて行われた車いすの部では、女子は土田和歌子(八千代工業)が優勝し、大会9連覇を達成。「日本人トップ」「総合3位以内」に加えて、条件とされた設定タイムの1時間46分00秒を約5分も上回る1時間41分04秒の好タイムをたたき出し、リオへの推薦内定を手にした。
残り1キロで女王を逆転しての優勝
土田はそう叫んで、両手でガッツポーズし、駆けつけた小学3年生の息子・慶将くんと抱き合った。その後も彼女の笑顔は咲き続け、うれしくて仕方ないという気持ちが溢れ出ていた。度重なるアクシデントで、結果を出すことができなかった昨年のことを考えれば、喜びもひとしおだったに違いない。
土田は今回、東京マラソンに向けて体力のベースアップを図る中、ハイペースで42.195キロを走り切るだけの力を養うため、男子選手とともに強化してきたという。それがレースで発揮された。
彼女にとって、今大会の最大のライバルとなったのは、タチアナ・マクファーデン(米国)。昨年は、ボストンマラソン、ロンドンマラソン兼世界選手権、シカゴマラソン、ニューヨークシティマラソンで優勝するなど、まさに飛ぶ鳥落とす勢いの26歳。「女王」の名にふさわしい成績を残している。
その女王に、土田はスタートからしっかりとついていき、一騎打ちのレース展開を見せた。途中、15キロの地点ではマクファーデンに3秒差をつけられたものの、その後に追いつくと、ともにローテーションをしながら走り続けた。マクファーデンのスピードに、土田はひけをとらない走りを見せ、勝負の行方はまったく分からなかった。
このままゴール前での競り合いにもつれこむかと思われたその時、土田が動いた。
「勝負するならここしかない」
土田がそう踏んだのは、41キロすぎ、最後のアップダウンだった。上りが終わり、下りに入るや否や、マクファーデンの後ろをピタリとつけていた土田は一気にギアを上げ、アタックを仕掛けた。並走する瞬間もないほど、あっという間に女王を抜き去っていった。マクファーデンは予想していなかったのか、それとも余力が残っていなかったのか、これに対応することができず、2人の差はみるみるうちに広がっていった。土田はそのままトップでゴール。大会前のトレーニングを実らせ、大会9連覇の偉業達成とともに、リオの推薦内定を決めてみせた。
リオの切符に届かなかった2015年
昨年の選考レースでは力を発揮できず。リオの切符には届かなかった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
そこで土田は、「必ずここで」という気持ちで11月の大分国際車いすマラソンに臨んだ。下馬評でも「総合3位以内」「日本人トップ」「1時間43分30秒以内」という3つの条件をすべてクリアする可能性は高いと見られていた。
ところが、思いもよらぬ敵が立ちはだかった。急激な気候の変化である。前日までの予報では、高い確率で雨となっており、肌寒い中でのレースが予想されていた。実際、前日夜からは雨が降り出していた。ところが、当日の朝になると、太陽が照り出し、スタートの11時には気温が26度にまで上昇。夏を思わせるような強い日差しの中、レースがスタートしたのだ。
すると、思い描いていたイメージとのあまりのギャップに、彼女の体はついていけなかったのだろう。スタートから、異常なほどの汗が滴り落ち、異変が生じていた。実際、走りは明らかにいつもとは程遠いもので、彼女いわく、「5キロ地点からは、ほとんど体が動いていない状態だった」という。その後、13キロ地点で嘔吐し、ストップ。なんとか走り続けようとしたものの、復調の気配は見られず、やむなくリタイアを余儀なくされた。熱中症が原因だった。