明暗を分けた新戦力のフィット感 ゼロックス杯2016 広島対G大阪

宇都宮徹壱

お互い手の内を知り尽くした者同士の対戦

広島が新加入のピーター・ウタカ(9番)らのゴールで3−1と勝利。今季最初のタイトルを手にした 【写真:築田純/アフロスポーツ】

 24年目を迎える2016年Jリーグの最初の公式戦は、あいにくの雨の中、日産スタジアムで開催された。毎年、新しいシーズンの開幕を告げるFUJI XEROX SUPER CUP(以下、ゼロックス)。例年よりも1週間早く開催された今大会は、急速に発達する低気圧の影響で大気の状態が不安定となり、試合前から冷たい雨模様に見舞われた。この悪天気で最も割を食ってしまったのが、今年で4回目を迎える、Jリーグマスコット総選挙である。

 ファンやサポーターの投票によって、Jクラブのマスコットに順位をつけ、栄えある1位には集合写真のセンターポジションが与えられる、この総選挙。私は毎年、40体近いマスコットが一堂に会した集合写真を撮影することを密やかな楽しみとしていたのだが、今年は雨天のため試合前の集合写真はなし。ハーフタイムに、テレビ向けの撮影はあったのだが、「雨に弱いマスコットは参加しません」(Jリーグの担当者)とのことで、いささか寂しい結果発表となってしまった。ちなみに今年の1位は、ベガルタ仙台のベガッ太。第1回総選挙(13年)以来、2度目のセンターポジションである。今年の目標は「いっぱい恋をする」とのこと。よく分からないが、頑張ってほしい。

 さて、ゼロックスである。今回はJリーグ王者のサンフレッチェ広島、そして天皇杯覇者のガンバ大阪の対戦となった。この顔合わせでまず思い出されるのが、昨年に復活したJリーグチャンピオンシップ(CS)決勝。年間順位3位のG大阪は、2位の浦和レッズを準決勝で3−1で下したものの、広島との決勝では合計スコア3−4(第1戦が2−3、第2戦が1−1)で敗れている。しかし、それから24日後に行われた天皇杯準決勝では、G大阪が広島に3−0で大勝。もっともこの間、広島はクラブワールドカップ(W杯)でテンションの高い4試合を戦っており、天皇杯を決勝まで戦い切るにはエネルギーがほとんど残っていなかったというのが実情であろう。

 リーグ戦、CS、そして天皇杯と昨シーズンは5回も対戦している広島とG大阪。お互いに手の内を知り尽くしているからか、それともシーズン最初の公式戦だからか、前半は両者ともに慎重な試合の入り方であった。ポゼッションでは広島が大きく上回っていたものの、シュートはわずかに2本(G大阪も1本のみ)。オープンな試合になることが多いゼロックスだが、この日の前半はジャブの応酬のみでハーフタイムを迎えた。

デビュー戦で初ゴールを挙げたウタカ

G大阪の新戦力、アデミウソン(9番)を押さえ込む広島の守備陣。堅守は今季も健在だ 【宇都宮徹壱】

「相手をゆさぶりながらビルドアップしていこう。もっとシュートを打っていこう。後半も粘り強い守備を」(広島、森保一監督)

「もっとアグレッシブに。攻撃も守備もどんどん仕掛けていこう。どこで狙うか、どこで行くのか、全員で連動していこう」(G大阪、長谷川健太監督)

 ハーフタイムでの両チームの監督のコメントは実に対照的だった。「ある程度、このままでいい」という森保監督に対して、長谷川監督は「こちら側から仕掛けないと相手は動かない。前線の並びを少し変えて、アグレッシブに行った」。その結果、試合は後半早々から一気に動き始める(もっとも、先制したのは広島であったが)。

 後半6分、右サイドで青山敏弘のパスを受けた塩谷司が、縦方向のクロスを供給すると、佐藤寿人が左足かかとで押し込み、これが先制ゴールとなる。しかしゴールの直後、佐藤は自らベンチに交代を要求。本人いわく「(ももの筋肉が)張っているのが分かった。あのあとスプリントしたら間違いなく肉離れになっていた」とのこと。すぐさま大事を取って、今季から10番を背負う浅野拓磨と交代する。

 その後も広島の攻撃は続き、柏好文の左からのクロスに丹羽大輝がスライディングで対応。この時、ボールは丹羽の顔に当たったものの、飯田淳平主審はハンドと判定し広島にPKを与える。当然、G大阪は猛抗議するもジャッジは覆らず、浅野が冷静に決めて後半12分に広島は2点差とした。

 しかしG大阪も負けてはいない。後半23分にはカウンターから阿部浩之が右サイドを駆け上がって折り返し、中央に走り込んでいた宇佐美貴史が気迫のダイビングヘッドで広島ゴールをこじあける。これで点差は1点。広島ベンチは、直後に柴崎晃誠に代えて新戦力のピーター・ウタカを投入する。

 そのウタカが早々に能力の高さを示す。後半28分、茶島雄介からのパスを中央で受け、ワントラップから右足で放ったシュートは東口順昭がかろうじてセーブ。続くコーナーキックのチャンスでは、ニアで相手DFがヘディングでクリアしたボールを、今度は右足ダイレクトで豪快に決めてみせた。ゲーム終盤には、宇佐美や井手口陽介が惜しいシュートを放つもネットを揺さぶるには至らず。ファイナルスコア3−1で、広島が今季最初のタイトルを手にした。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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